特集・コラム
映画のとびら
2021年8月6日
ワイルド・スピード/ジェットブレイク|映画のとびら #130
人気シリーズ第9弾。ヴィン・ディーゼル以下、おなじみの面々がカーアクションの枠を超えたアクションでまたまた観客を魅了する。監督はシリーズ第3~6作を手がけ、『スター・トレック BEYOND』(2016)でもいい手際を見せたジャスティン・リン。
恋人レティ(ミシェル・ロドリゲス)、幼い息子のリトル・ブライアンと静かな暮らしをしていたドミニク(ヴィン・ディーゼル)のもとに届いた新たなミッション。それは、世界を掌握できるというデジタル機器「アリエス」の回収。ミスター・ノーバディ(カート・ラッセル)が指揮をとっていた輸送機が南米に墜落したというのだ。早速、現地へ飛んだ一行は「アリエス」を無事に回収したが、そこへ思わぬ武装集団が現れる。そのリーダーはなんとドミニクの弟ジェイコブ(ジョン・シナ)だった。鮮やかなチームプレイで「アリエス」を奪ったジェイコブは、某国独裁者の息子とともに世界を我が物にしようとするが、もちろんドミニクたちがそれを黙って見ているはずもなかった。
ドミニクの宿敵サイファー(シャーリズ・セロン)が再登場するだけでなく、死んだはずのハン(サン・カン)までもがカムバック。新しさということではドミニクとその弟の対決にとどめを刺すだろう。登場人物の過去に目を移すことで自ずと内面のドラマが刻まれることになり、シリーズはまた新たな彩りを加えた。もちろん、これまでの物語を知らない初見の人でも大丈夫。いろいろ人間は出てくるが、すべてにおいて言葉より行動の世界。まさにドライブ感覚で興奮の地へ無理なくいざなってくれる。
アクション描写は例によってキレッキレ。もはや空を飛ぼうが地面に潜ろうが誰も驚かない本シリーズだが、前半の見せ場は密林での地雷原突破。地雷を踏んでも爆発前に走り抜ければ大丈夫という理屈のもと、ガンガン車をかっ飛ばす。後半ではとんでもない磁力を持った機械で敵の攻撃をかわすというカーチェイスを都会のど真ん中で披露するなど、もうやりたい放題。最高のアクションのためなら、全くお金に糸目を付けていない。普通の映画ならいいかげん食傷気味になるとこだが、そうさせないところがこのシリーズの偉いところ。あまりのことに思わずプッと吹き出すこと請け合いのシーンの連続である。
最近では世界的な危機を救うミッションを引き受ける側になっており、いよいよカーアクション映画の衣をまとった『ミッション:インポッシブル』の様相を呈してきている。パラマウント社にトム・クルーズがつくなら、こっち(ユニバーサル社)にはヴィン・ディーゼルがいるぜ、といったところか。
物語に絡んでくるはずのあの人が出てこないなと思ったら、最後の最後でカメオ出演。ドミニクのあの親友も終盤で変わらぬ笑顔を見せる。エンドロールでうかつに席を立つことだけは避けられたい。
シリーズ開始から20年。思わぬ長寿となった同シリーズは、つぎの第10作でついに終幕となるという。それも前後編に分ける仕掛けで。こうなると今度は『ハリー・ポッター』である。シリーズ完結といいながら、またどんなスピンオフが始まるのか怪しいところだが、まずは最後のお祭りを楽しく迎えるためにも、この第9作、しっかり目に焼き付けておきたいところだ。
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1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。