孤狼の血 LEVEL2｜映画のとびら #132

＃132

孤狼の血 LEVEL2

2021年8月20日公開

『孤狼の血 LEVEL2』レビュー

狼は傷ついてこそ、より強くなる

　柚月裕子による人気警察小説『孤狼の血』を映画化し、高い評価を得た第１作の「その後」を描くアクション・ドラマ。松坂桃李演じるマル暴刑事・日岡修一を主人公に、広島のヤクザ、警察、公安を交えての新たな抗争劇が幕を開ける。監督には前作に続き、白石和彌が登板。

　大上（役所広司）の死から３年の歳月が過ぎていた。今も呉原東署の刑事二課にとどまる日岡（松坂桃李）は、大上の遺志を継いで、暴力団組織を巧みに操り、広島の治安を守ってきた。そんなある日、狂犬のような上林（鈴木亮平）が刑期を終えて出所。今は亡き五十子会会長・五十子正平（石橋蓮司）に忠誠を尽くしていた上林は早速、上林組を立ち上げ、元会長を陥れた人間の捜索を開始、復讐の刃を振り始める。広島県警・管理官の嵯峨（滝藤賢一）の命令により、定年間近の警部補・瀬島（中村梅雀）とバディを組まされるなど、動きがとりづらくなっていた日岡は、それでも「均衡」を取り戻すべく、独自の切り口で奔走。弟分のような存在のチンタ（村上虹郎）をスパイとして上林組に送り込んだが、チンタの姉・真緒（西野七瀬）の不安は的中。想像を超える混乱と悲劇が日岡の行く手に待っていたのだった。

　正義を獲得するためには、あえてヤクザと結託し、違法捜査も辞さない。そんな「汚れ刑事」にバディとしてついた新米刑事の葛藤と成長を描いた前作は、今や目的のためには平気で泥水を飲む男の物語の序章と化した。サングラスをかけ、すっかりやさぐれた風貌となった日岡こと松坂桃李の「全力」がまず新鮮。大上＝役所広司が遺した狼の絵柄が入ったライターを片手に、精一杯、「正義の悪徳」を演じる。どこか線の細い好青年のイメージが抜けない松坂だが、それを「脇の甘さ」として逆手にとったドラマは秀逸で、前作のような痛快なる結末へとは軽々しく向かったりしない。ハッキリ言って、挫折の物語であろう。ある意味、『スター・ウォーズ』初期三部作（1977-1983）と構図が近く、立ち位置としては『スター・ウォーズ　帝国の逆襲』（1980）であろう。師から教えを受けた青年の屈辱の物語は今後、どう転ぶのか。早くも第３作の登場を期待させるという点では、十分に「孤狼の血サーガ」を盛り上げていて頼もしい。

　そもそも柚木裕子の原作を微妙に改案した前作では、そのまま原作シリーズの第２作『凶犬の眼』（2018年発表）へと映像化の道をつなげることは不可能だった。製作陣が代案として行ったのは『孤狼の血』と『凶犬の眼』の間の物語を新たにオリジナルで作り上げること。それが今回の土台となっており、日岡の「その後」が別の形で掘り下げられる格好になった。出口が決まっているとはいえ、ある意味、自由に編まれた新たな抗争劇は、日岡だけでなく、鈴木亮平、村上虹郎ら、新規開発の登場人物たちも輝かせた。中でも、鈴木の異常性をはらんだヤクザぶりは、日岡＝松坂の理想を砕いて、痛いほどに鮮やか。クラブのママを演じる西野七瀬もイメージの転換を果たしていて、やはり心地よい。

　日岡と上林の対決を縦軸に、思いもよらぬ裏切りと陰謀が明らかになるクライマックスも見事。そんな物語の巧妙な仕掛け＝意外性を前に、単なる任侠映画の一種のように思い込み、見逃す愚を犯すことなかれ。屈辱は男を磨く。狼は傷ついてこそ、より強くなる。

　2021年8月20日（金）全国ロードショー

原題：孤狼の血 LEVEL2 ／ 製作年：2021年／ 製作国：日本／ 上映時間：139分／ 配給：東映／ 監督：白石和彌／ 出演：松坂桃李、鈴木亮平、村上虹郎、西野七瀬、早乙女太一、斎藤工、中村梅雀、吉田鋼太郎、滝藤賢一、中村獅童、音尾琢真、矢島健一、渋川清彦、毎熊克哉、筧美和子、青柳翔、三宅弘城、宮崎美子、寺島進、宇梶剛士
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