特集・コラム

映画のとびら

2021年8月20日

うみべの女の子|映画のとびら #133

#133
うみべの女の子
2021年8月20日公開


©浅野いにお/太田出版・2021『うみべの女の子』製作委員会
『うみべの女の子』レビュー
「うみべ」の女の子は「いそべ」に恋をする

 漫画家・浅野いにおが2009年に発表した同名コミックを実写映画化した思春期映画。海を臨む田舎町に暮らす中学生男女の、もろくも熱い心の揺れを描く。主人公の小梅に『イソップの思うツボ』(2019)、『猿楽町で会いましょう』(2021)の石川瑠華。小梅と関係を持つ同級生・磯辺に『14の夜』(2016)、『暁闇』(2018)、テレビドラマ『きれいのくに』(2021)の青木柚。『リュウグウノツカイ』(2014)、『天使のいる図書館』(2017)の俊英ウエダアツシが監督を務めた。

 浜辺で何かを探して歩くのが好きな中学2年生の小梅(石川瑠華)は、同級生の磯辺(青木柚)と惰性のように性行為を繰り返す日々を送っていた。恋心を抱いていた先輩の三崎(倉悠貴)にフラれた反動で関係を持ってしまったのが最初。当時も今も気持ちが入っていないはずなのに、小梅は磯辺の家を頻繁に訪ねてしまう。一方、中学1年のときに小梅に告白までしていたはずの磯辺は、徐々に小梅に対して態度がぞんざいになっていく。実は去年、自身の誕生日に親しかった兄を海で失って以来、「近々、死ぬと思う」と口走るなど、自暴自棄になりかけていたのだった。磯辺の心をはかりかねる小梅はいらだち、ひそかに小梅に思いを寄せていた幼なじみの鹿島(前田旺志郎)はふたりの関係に嫉妬心を募らせていく。

 体の関係で始まる本気の恋の物語。導入部分でそう断じると、図式的でありふれた作品に映り、失望を抱いてしまうかもしれない。仮にそうであったとしてもささやかな忍耐力を持って彼女、彼の行く末を見守るべきだろう。手垢のついた仕掛けだからこそ、見えてくる味わいもある。具体的には、思春期の確かな情感の手ごたえ、ありきたりのハッピーエンドとは異なる痛みと苦み、そして温もりの出口である。

 登場人物がきちんと生きている。その実感はどこか1960~70年代の映画に通底するもので、ちょっと見苦しいような人間のあがき、もがきが、ぎこちなくも繊細に刻まれた。では、まったくイマドキの気分から遠いかといえばそうでもなく、人間的な臭みという部分では少々、薄味だったりもする。この不思議な肌触りは、たとえば登場人物を年齢的に成人に達している俳優陣がこなしていることに一因を見いだしてもいい。性行為描写が裸体をもって映像化されている以上、当然の作劇状況なのだが、額面どおり「14歳の仮面をつけた20代の物語」としての解釈も可能になるというべきか。登場人物と同年齢の俳優が演じたら、それはそれで10代の観客に対して重い現実感は生み出せただろう。しかし、そうしなかったことで、二重の興味につながっている実感。つまり、14歳という設定にしては早熟すぎると感じる向きにも十分、身の丈に合った視界が得られる作品に昇華しているのである。早熟の思春期映画にして、大人の青春映画であるという二重構造。それが巧まずして得られている。その広さと危うさ、幼児性と成熟性の狭間のスリル。

 確かな演出に支えられて、俳優陣が皆、まぶしい。石川瑠華はそのあどけなさと無垢な素顔、20代の身体をもって「14歳を演じる20代」の醍醐味を醸し出した。出演当初は自身が中学生に見えているかどうか、不安だったとのことだが、全くの杞憂であり、むしろそれ以上の効果を上げているといっていい。青木柚はテレビドラマ「かぞくのくに」の丸坊主高校生からのさらに低年齢化に挑んで苦悩少年のすごみを見せつける。最近では『キネマの神様』(2021)の好演も評判の前田旺志郎も10代のまっすぐな嫉妬に弾みを付け、小梅の親友・桂子役の中田青渚(せいな)は今泉力哉作品への連続出演もうなずける存在感を打ち出した。倉悠貴の軽薄な若者像には嫌悪感が鮮やかににじむ。いずれも必見の成長株たちだ。

 少女は「うみべ」で何を見つけたのか。「いそべ」で何を失い、学んだのか。浅野いにおに話を戻すなら、その最初の映画化作品『ソラニン』(2010)と並べて味わうのもオツかもしれない。

 8月20日(金)新宿武蔵野館ほか公開
原題:うみべの女の子 / 製作年:2021年 / 製作国:日本 / 上映時間:107分 / 配給:スタイルジャム / 監督:ウエダアツシ / 出演:石川瑠華、青木柚、前田旺志郎、中田青渚、倉悠貴、宮﨑優、髙橋里恩、平井亜門、円井わん、西洋亮、高崎かなみ、村上淳
公式サイトはこちら
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文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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