特集・コラム

映画のとびら

2021年8月20日

白頭山(ペクトゥサン)大噴火|映画のとびら #134

#134
白頭山大噴火
2021年8月27日公開


ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, DEXTER STUDIOS & DEXTER PICTURES ALL RIGHTS RESERVED
『白頭山(ペクトゥサン)大噴火』レビュー
早い、軽い、うまい

 イ・ビョンホン、ハ・ジョンウ、マ・ドンソクという人気韓国俳優がそろい踏みするパニック・アクション。北朝鮮と中国の国境地帯にそびえる白頭山の噴火をめぐり、韓国兵、北の工作員、地質学者が朝鮮半島の危機に立ち上がる。地元・韓国では820万人を動員する大ヒットを記録。監督は『ヨコヅナ・マドンナ』(2006)のイ・ヘジュンと『神と共に』二部作(2017/2018)のキム・ビョンソ。両者にとって『22年目の記憶』(2014)に続く共同監督第2作となった。

 朝鮮半島の人々から「祖宗の山」「聖山」などと称される標高2,744mの巨大な休火山・白頭山が噴火した。これに伴い、マグニチュード7.8の巨大地震が発生。この未曾有の危機に対し、地質学者のカン・ボンネ(マ・ドンソク)は、白頭山の地下に4つのマグマだまりが存在し、その最下層のマグマだまりに噴火がつながると、さらに巨大な揺れが発生し、朝鮮半島を壊滅状態にすると分析。解決方法はただひとつ。マグマだまりの一部を核爆弾で破壊し、圧力を下げること。そのためにはふたつの必須条件があった。北朝鮮が保有する核ミサイルからウラニウムを入手すること、北で囚われの身となっている工作員リ・ジュンピョン(イ・ビョンホン)を案内役として確保すること。制限時間は75時間。仮にウラニウムが手に入っても成功率はわずか3.48%という難題を任されたのは、爆発物処理班に属するチョ・インチャン大尉(ハ・ジョンウ)だった。身重の妻(ペ・スジ)を抱えた上、除隊目前に降ってきた無茶な命令にインチャンの心は穏やかではなかったが、思わぬ「難敵」の登場で作戦はすぐに暗礁に乗り上げるのだった。

 火山の噴火、震災の恐怖ということでは、一種の自然災害パニック映画の部類に入るだろう。しかし、災害描写はその発端で集中的に登場するのみで、ここでは「きっかけ」、もしくは「カウントダウン」の役割に過ぎない。すなわち、北朝鮮へ密入国し、核兵器を奪取するという軍事ミッション、その作戦の経過にこそ物語の核があり、全体としてはある種のサバイバル・アクションとなっているといっていい。

 特徴的なのは、アクションのスリル一辺倒に終わっていないこと。節々に「笑い」を入れ込もうという腐心が感じられ、物語を暗く重いものにしようとしていない。その点、非常に現代的な作劇といってよく、その軽妙さが明るいゲーム性をも醸しているといっていいだろうか。同時に、ドラマ展開は死ぬほど早く、全くモタモタしていない。もうちょっと説明を加えてもいいところもあるのだが、そんなことをしていてはフンドシがゆるむとでも言わんばかりに突っ走る。いわゆるジェットコースター型。スピーディーにまとめたことで余計な科学的問題に拘泥しないところなど、潔いといえば潔い。

 まさに「早い、軽い、うまい」という人気ファーストフード的な感覚の作品であり、拡大系エンターテインメントとしての商品価値は大きい。これだけの国境をまたぐ作品なのに、北の首領さまが全く出てこない不満を持つ者もいるだろうが、その配慮にどんな事情があったかを考えるのも楽しみのひとつだろう。

 クレジットではイ・ビョンホンが先頭に立っているが、お話の中心にいるのはハ・ジョンウ。ちょっとのんきすぎる軍人像だが、感情移入はしやすいはず。途中から登場するイ・ビョンホンにも当然、見せ場は多く、ミッション上で観客の同情を誘うのもきっと彼。今や世界的な存在となった俳優に、韓国映画人の誠意と謝意はきっちりこの工作員役に込められている。強面の人マ・ドンソクの「軽さ」「優しさ」は、ある意味、この作品の性質を象徴しているかもしれない。

 もし日本で富士山が噴火したらどうなるのか。そんな空想と重ねてみるのも面白い本作品は、逆にわが国では到底想像もできない突飛な軍事映画として、それだけで十分、映画的興奮に満ちている。

 8月27日(金)全国ロードショー
原題:白頭山(ペクトゥサン)大噴火(英題: Ashfall) / 製作年:2019年 / 製作国:韓国 / 上映時間:128分 / 配給:ツイン / 監督:イ・ヘジュン、キム・ビョンソ / 出演:イ・ビョンホン、ハ・ジョンウ、マ・ドンソク、チョン・ヘジン、ペ・スジ
公式サイトはこちら
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文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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