特集・コラム

映画のとびら

2021年9月17日

空白|映画のとびら #141

#141
空白
2021年9月23日公開
★「空白」のポスターを抽選で3名さまにプレゼント!<応募受付終了>

(C)2021『空白』製作委員会
『空白』レビュー
「空白」とは何か

 『ヒメアノ~ル』(2016)、『犬猿』(2018)、『愛しのアイリーン』(2018)など、秀作、話題作を次々に発表する𠮷田恵輔監督による心揺さぶる人間ドラマ。交通事故死した女子中学生をめぐり、その父、スーパーの若い店長、スーパーの女性店員、中学生をはねた女性運転手、中学生の担任教師らが戸惑い、混乱し、激しく傷つけ合っていく。『パディントン』(2014)の声の吹き替えで共演していた古田新太と松坂桃李が、それぞれ被害者の父、事故のきっかけをつくった店長役で実写初共演している。

 女子中学生の添田花音(伊藤蒼)は、学校帰りに寄ったスーパーアオヤギでマニキュアを手に取っているとき、店長の青柳直人(松坂桃李)に万引の疑いをかけられ、店の事務所に引っ張られていく。だが、ある瞬間、花音は青柳の隙をついて店を飛び出し、道路を走り出した。背後から徐々に迫ってくる青柳を振り払おうと、道路を横切ったときである。花音は中山楓(野村麻純)が運転する乗用車に跳ね飛ばされ、見るも無惨な姿で命を落としてしまう。警察で娘の変わり果てた姿を見たシングルファーザーの充(古田新太)は絶叫。葬儀に来た青柳に「娘が万引きしたとは思えない。お前がいたずら目的で万引き犯に仕立てたんじゃないのか」と詰問する。その模様をマスコミが世に流すと、充の家には「娘は犯罪者」、青柳の店には「ロリコン野郎」と、罵倒する文字が躍った。充は担任教師の今井若葉(趣里)にも「いじめで万引きを強要されたのではないか」と原因追及の手をゆるめることなく、青柳の店に行くと店頭に無言で立ち尽くしたりもする。店員の草加部麻子(寺島しのぶ)は「店長は悪くない」と必死にかばうが、青柳は充、世間、両方からの圧力にますます追い込まれていくのだった。

 製作プロダクションが『新聞記者』(2019)や『MOTHER マザー』(2020)のスターサンズゆえに、どうしても社会性の側面に目が行くだろう。責任追及へ先鋭化していく添田充、罪の意識にさいなまれ店の営業がままならなくなる青柳直人、そして取材攻勢に拍車をかけるマスコミ。それぞれの状況は確かに考えさせるものがあり、現代の世相を問う問題作としてインパクトは十分。社会派ドラマを楽しもうとする観客を決して裏切ることはない。古田新太をモンスター・ペアレントのように見立てるアングルもあっていい。ただ、問題意識一辺倒で接するには惜しい作品でもある。

 𠮷田恵輔のオリジナルとなる物語は、非常にバランス感覚に長けており、具体的にはそれぞれの登場人物に少なからず同情の余地を残す仕掛けをとって、善悪の差をはっきりさせない。同時に、女子中学生の交通事故についても、加害者の不在をにおわせる絶妙な「罪の距離感」をとった。結果、父もスーパーの店長も、車の運転手も学校の教師も、全員が加害者であり被害者でもあるという状況が生まれ、それぞれが出口なき問題に直面し、絶妙な塩梅で重荷を背負わざるを得なくなる。こうなると、ただただ暗黒の道をひた走るドラマ展開となるのが定石で、実際、この作品にもそういう気分があるのだが、かといってウンザリするような、真っ暗なだけの作品に終わっていない。どこかその重い状況を観客がスリルをもって見守ることができる「ゆとり」がある。罪深き映画的愉悦というほかない。その不思議、面白さ。

 さても、𠮷田恵輔は喜劇畑での活躍で知られる人でもあり、今回はそれを封印したシリアス作品という触れ込みがある。表面的にはそのとおりなのだが、その奥底では喜劇的特性=「笑い」の要素がぬぐいきれず、物語全般、または各登場人物の影に潜んでいる可能性が大きい。それが絶妙なる「軽み」となって、物語を息苦しい気分からギリギリ解放し、映画的愉悦へと昇華させたのではないか。だから見やすい。窮屈な重さがない。𠮷田演出だからこそかなった絶技。罪深き映画的才能というべきか。

 題名の「空白」については「からっぽな現代の象徴」とするプロデューサー側の声がある。社会派ドラマとしてはその意見、悪くない。しかし、物語においては事件をめぐる各登場人物の「空白」を指しているといっていい。たとえば、父には娘と心を通わす日常が欠けていた。知っているつもりだった娘の日常が事件でどんどん覆っていく屈辱と悔恨。責任の追及もいつの間にか「ひとり相撲」になっていく。その過程がたまらない哀感を醸し出す。胸の痛みをあぶり出す。では、ほかの登場人物たちの「空白」とは何か。何がなかったのか。それをひとつひとつ見つけ出していくのも、この映画の楽しみである。

 後味も悪くない。𠮷田演出はほんの少しの「救い」を最後の最後で添田と青柳に与えることで、彼らを漆黒の闇から解放している。同時に、それは観客の物語からの解放ともなった。うまい。今年、すでに『BLUE/ブルー』(2021)なる傑作を放っている𠮷田恵輔、続けざまの佳作。絶好調である。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 

 9月23日(木・祝)全国公開
原題:空白 / 製作年:2021年 / 製作国:日本 / 上映時間:107分 / 配給:スターサンズ/KADOKAWA / 監督・脚本:𠮷田恵輔 / 出演:古田新太、松坂桃李、田畑智子、藤原季節、趣里、伊東蒼、片岡礼子、寺島しのぶ
公式サイトはこちら
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