特集・コラム

映画のとびら

2021年9月24日

ディナー・イン・アメリカ|映画のとびら #142

#142
ディナー・イン・アメリカ
2021年9月24日公開


© 2020 Dinner in America, LLC. All Rights Reserved
『ディナー・イン・アメリカ』レビュー
パンクでいこう

 『ミート・ザ・ペアレンツ』(2000)、『ナイト ミュージアム』(2006)の人気俳優ベン・スティラーがプロデュースを務めたユニークな青春コメディー。パンクロック好きの「ぼっち女」と警察に追われるパンクロッカーの恋の顛末(てんまつ)を痛快に描く。監督は『バニーゲーム』(2010)のアダム・レーマイヤー。2020年のサンダンス映画祭〈オフィシャルセレクション〉で上映されたほか、ダブリン国際映画祭ではダブリン批評家スペシャル審査員賞を、オデッサ国際映画祭ではグランプリを受賞するなど、海外の各映画祭では高い評価と支持を得ている。正式な劇場公開となるのは日本が初。

 友だちもなく、抑圧されたような日々を過ごしている20歳の女性パティ(エミリー・スケッグス)の最大の慰みは、パンクロックを聴いてひとり、踊りまくること。大好きなパンクバンド「サイオプス」の覆面ヴォーカル「ジョンQ」へのファンレターのために、今日もポラロイドで淫靡(いんび)な写真を撮っている。そんなある日、バイト先のペットショップ脇で、警官に追われているひとりの男と遭遇。彼、サイモン(カイル・ガルナー)をかくまうことにしたパティだったが、「サイオプス」が人気女性ポップグループと共演するという話題を持ち出すと、サイモンはなぜか慌てて家を飛び出していくのだった。

 映画は、狂犬のようによだれをたらしているサイモンの顔のアップから始まる。言うことなすこと、全部すっ飛んでいるサイモンは、開始からしばらく、ただのとっつきにくい不良青年に映るかもしれない。少なくとも、多くの観客は最初の30分ほどで展開するドラマに共感を得られず、いや、むしろ無理にイキがっている暴走劇のように見えて反感すら抱く向きもあるだろう。しかし、それも主人公の男女が行動を共にし始めるまでのこと。実は周到に張り巡らされた笑いの布石がボディーブローにように徐々に効いてきて、後半になると尻上がりに面白くなっていく。2度目の鑑賞ともなると、スルーしていた笑いに気づいて、あらためて大笑いするとともに、単なるバカップル映画とはいよいよ侮れなくなるはずだ。

 はみ出し者カップルの物語となると『ワイルド・アット・ハート』(1990)、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994)あたりが、パンクカップルのドラマとなれば『シド・アンド・ナンシー』(1986)などが思い浮かぶ観客も多いだろう。けれども、この作品は麻薬で破滅するわけでも、行き止まりの悲劇に終わるわけでもない。その点、コメディーという演出姿勢は貫かれており、ドラマ構造においても主人公ふたりの心の解放に落ち着く。後味はさわやかであり、ちょっと変化球だけれど、互いを尊敬し合う者同士が結ばれるラブストーリーとして、きっとだれもが心に熱いものを感じることだろう。

 サイモンがパティのとある才能に気づくところ、そしてそれをもとにオリジナルの歌曲が編み出されるくだりは特に感動的な場面として挙げていい。『すいか(Watermelon)』と名付けられた同歌曲は、監督のレーマイヤーとパティ役のエミリー・スケッグスの共作で生まれたものという。歌詞が響く。ラブソングとして輝く。そして、感動が実感として飛んでくる。パンクにふれてみたくなる。

 脇を固める面々の中に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)のリー・トンプソン、テレビドラマ『24 -TWENTY FOUR-』シリーズ(2001-2014)のメアリー・リン・ライスカブも登場。いずれもちょっとズレた中年女性を演じており、勇気あるコメディーリリーフを果たしている。

 9月24日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
原題:Dinner in America / 製作年:2020年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:106分 / 配給:ハーク / 監督:アダム・レーマイヤー / 出演:カイル・ガルナー、エミリー・スケッグス、グリフィン・グラック、パット・ヒーリー、メアリー・リン・ライスカブ、リー・トンプソン
公式サイトはこちら
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文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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