特集・コラム
映画のとびら
2021年10月8日
DUNE/デューン 砂の惑星|映画のとびら #145
アメリカの小説家フランク・ハーバートが1960年代に著した長篇小説『デューン 砂の惑星』を『メッセージ』(2016)、『ブレードランナー2049』(2017)の俊英ドゥニ・ヴィルヌーヴが実写映画化したSF叙事詩。砂漠世界が広がる惑星アラキス(通称デューン)を舞台に、陰謀の罠に落ちた名家の青年の活躍を描く。主人公のポールに『君の名前で僕を呼んで』(2017)のティモシー・シャラメ。ポールの母レディ・ジェシカに『グレイテスト・ショーマン』(2017)のレベッカ・ファーガソン。ポールの父レトに『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)のオスカー・アイザック。守備隊の長に『ボーダーライン』(2015)でヴィルヌーヴと組んでいるジョッシュ・ブローリン。ハルコンネン家の長ウラディミールに『マイティ・ソー』(2011)のステラン・スカルスガルド。砂漠の民のリーダーに『007/スカイフォール』(2012)のハビエル・バルデム。ポールを導く砂漠の民の娘チャニに『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)のゼンデイヤ。
時に10191年を数える遠い未来。宇宙帝国皇帝の命により、アトレイデス家はハルコンネン家(原作ではハルコネン)に代わって惑星アラキスの統治者となった。アラキスは一見、砂漠の民(フレメン)と巨大な砂虫(サンドワーム)しか住まない未開の地に映るが、実は宇宙社会において貴重なメランジと呼ばれる香料(スパイス)が採取できる重要な星。アトレイデス家はその管理を行う役割を担ったのである。日々、夢に現れる青い目の美女(ゼンデイヤ)に心を奪われ、これから始まる生活に得も言われぬ予感を持っていたアトレイデス家の跡継ぎポール(ティモシー・シャラメ)だったが、アラキスに到着してまもなく、一家は謎の一団に夜襲された。それはハルコンネン家が放った刺客だったのである。
映画が始まってそれほど長くないタイミングで、観客は誰もが気づくだろう。この物語は終わらないと。通常の映画なら最初の30分にあたる部分を、2時間30分かけて描いた作品といっていい。つまり、これは長大な物語のほんのプロローグ。しかし、目もくらむヴィジュアル・イメージが押し寄せる壮大な序章。ハーバートの原作を寵愛するヴィルヌーヴならではの仕掛けとしてよく、はなから物語を簡略化しようとしていない。映画の短い尺の中に要約して押し込もうとしていない。事実、今回語られる物語は、先述の物語紹介でほぼ終わっている。ただし、そこに描かれるエピソードや要素は濃密。原作を知らない観客には、登場する固有名詞、設定のひとつひとつに恐らく戸惑い、その整理に奔走している間にどんどん時間が過ぎていくことだろう。逆にこれ以上、物語の進行が速かったら、どんなことになっていただろう。
一般的には、ピーター・ジャクソン監督による『ロード・オブ・ザ・リング』三部作(2001-2003)を見始めるような感覚で接することを推奨したい。先は長いのである。では、お話があまり前に進まず足踏み状態の内容なのかといえばそうでもなく、少なくとも目に鮮やかな映像がてんこ盛りとなっていて飽きさせない。特殊撮影やCG処理にたよらなかった砂漠の景観、そこに現れる巨大なサンドワーム、そしてアトレイデス家、ハルコンネン家それぞれの邸宅で見られる壮麗なセット。いずれももはや眼福といっていいこだわりの仕上がりで、たとえば同じ監督の『メッセージ』や『ブレードランナー2049』のような世界観を期待する観客には相応の満足がいくはず。むしろ、世界観がすべてともいえる。あらかじめ物語を頭に入れておくことで、そういったヴィジュアルを楽しむことこそ肝要な作品なのかもしれない。これほど大きなスクリーンが似合う映画も最近、あまりないのではないか。
壮大な『デューン』伝説の入り口でしかない今回の作品は、かといって、観客のストーリー的満腹感を全く無視しているわけでもない。この物語がどこへ行こうとしているのか。その「予告映像」のような仕掛けとなっているのが、ポールが見る予知夢。罠に落ちたポールとその仲間の再興をほのかに、それでいてドラマティックに感じさせるその夢は、今回の「序章」にバランス感をもたらしているばかりか、遠からぬ将来にきっと実現するはずの次なる映像化への期待を募らせる。砂漠での冒険は今、始まったばかりだ。
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タイトル | デューン/砂の惑星 |
製作年 | 1984年 |
製作国 | アメリカ |
上映時間 | 137分 |
監督 | デヴィッド・リンチ |
出演 | カイル・マクラクラン、ショーン・ヤング、スティング、ケネス・マクミラン、マックス・フォン・シドー |
SFファンからすれば、知っていて当然のフランク・ハーバート原作の名作。その映像化は1970年代から試みられており、その最初の成就はデヴィッド・リンチにメガホンが託された『砂の惑星』(1984)。『ブルーベルベット』(1986)やテレビシリーズ『ツイン・ピークス』(1989-2017)でも組んだカイル・マクラクランをポール役に迎えて、『イレーザーヘッド』(1976)、『エレファント・マン』(1980)の監督ならではの怪奇味を加えた一本。原作に実直なドゥニ・ヴィルヌーヴ版に比べると大雑把に映る向きもあるかもしれないが、音楽担当TOTOの楽曲に乗せて独自の世界観を築いていて、今見ても興味深い。後にリンチ抜きでテレビ放映用の3時間バージョンも作られている。
リンチ版映画作品の後には、テレビドラマの映像化も果たされている。その作品『デューン 砂の惑星』(2000)は、ウィリアム・ハートを主演に迎え、5時間近い尺で原作を丁寧に追いかけたもの。後に続編となる『デューン 砂の惑星Ⅱ』(2003)も製作されており、映像の迫力はさておき、まずは物語をしっかり味わいたいという向きにはオススメ。それぞれグレアム・レヴェルとブライアン・タイラーが音楽を担当しており、その秀逸なる音楽をサントラ盤で楽しむのも一興だ。
デヴィッド・リンチ以前に映画化を試みた監督のひとりに、アレハンドロ・ホドロフスキーがいる。カルト映画『エル・トポ』(1970)、『ホーリー・マウンテン』(1973)の奇人監督らしく、キャストにサルバトール・ダリ、ミック・ジャガー、オーソン・ウェルスなどと、とんでもない面々を招くだけでなく、デザイン担当にカルト漫画家のメビウス、後に『エイリアン』(1979)でスポットを浴びるH・R・ギーガーを用意。その上、計10時間から成る完全なる原作の映像化を果たそうとしていたのである。1974年より開始されたこの企画は結局、頓挫してしまうわけだが、その顛末は『ホドロフスキーのDUNE』(2013)なるドキュメンタリーに詳しい。ヴィルヌーヴ版鑑賞の後にでも目にしてほしいところ。
もちろん、フランク・ハーバートの原作に目を通すことが『デューン』対策にいちばんなのは言うまでもないこと。第1作は1965年に発表されているが、その後、ハーバート自身が5本の続編を執筆しており、さらにハーバートの死後の2000年以降、息子ブライアン・ハーバードがケヴィン・J・アンダーソンと組んで書き続けている続編『デューンへの道』も刊行中。興味がある人はぜひ。
『デューン 砂の惑星』の世界観に影響された、もしくはそれを継承した映画作品に『スター・ウォーズ』(1977)、『風の谷のナウシカ』(1984)などを挙げる評者もいる。楳図かずおの傑作漫画『漂流教室』(1972-1974)に登場する未来の砂漠化世界、そこに登場する砂虫のような巨大生物も、惑星アラキスの気分が漂っていて、やはり目にしておきたいところだ。
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。
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