特集・コラム

映画のとびら

2021年11月19日

1941 モスクワ攻防戦80年目の真実|映画のとびら #150【ポスタープレゼント】

#150
1941 モスクワ攻防戦80年目の真実
2021年11月19日公開
★「1941 モスクワ攻防戦80年目の真実」のポスターを抽選で3名さまにプレゼント!<応募受付終了>

© Voenfilm
『1941 モスクワ攻防戦80年目の真実』レビュー
感動を越えた戦場の青春の痛み

 1941年10月から翌年1月にかけて行われたドイツとモスクワの戦い。ドイツ側では「タイフーン作戦」、一般には「モスクワ攻防戦」として知られる激戦の、ほとんど世の明るみに出ない初期戦を描いた戦場ドラマ。若い命の悲痛な運命がスリリングな戦闘描写の中に刻まれていく。監督は『ミッション・イン・モスクワ』(2006)、『アルマゲドン・コード』(2007)といった現代アクション、『JIGSAW ザ・リアリティショー』(2010)などのホラー作品が日本で紹介されているヴァディム・シメリェフ。

 1941年10月、モスクワへ矛先を向けたナチス・ドイツの侵攻はすでに始まっていた。300両を越える戦車を擁したその勢力はすさまじく、動きも速い。防衛に努める友軍の奮闘も風前の灯火であった。同じ頃、ポドリスク兵学校では、士官候補生のサーシャ・ラヴロフ(アルチョム・グビン)とディミトリ・シェミャーキン(イゴール・ユディン)が、親友として、恋のライバルとして日々、しのぎを削っていた。彼らは近い将来、戦地で下士官、一般兵を指導するはずのエリートだったが、ドイツ軍の動きを危惧した軍上層部の判断により、士官候補生たちの出陣は、急遽、3カ月も早められてしまう。それも、士官ではなく、一兵卒として。目的地は、イリンスコエ村の防衛戦線。新規援軍の用意がととのうまで「なんとか5日間、ドイツ軍を足止めしてほしい」というのが軍上層部の要望だったが、40基のトーチカは設営の途上であり、使用できる砲門もたった12門。明らかな劣勢が現地の将校たちの目に映る中、サーシャとディミトリは祖国と愛する人々のため、その身を投げ出して敵に立ち向かう。やがて、同じ戦線には彼らが愛するマーシャ(リュボフ・コンスタンティノワ)も衛生兵として軍の一員に加わるのだった。

 結局、5日間のはずの戦闘は12日間に及び、3,500人の兵士のうち、2,500人が戦死したという。そんな実話を元にしているというドラマは、物語そのものよりも、まず戦場を「体感」するという映像的臨場感の方が見ごたえになるだろうか。実際に戦闘が行われた場所で組まれたオープンセットはそれだけでもう広大かつ緻密で、そこを博物館から運び出されたという本物の戦車、軍用車が走る。銃火器類もウソが少ない様子で、対戦車用徹甲弾をこめて放つまでの砲術手順などはハラハラするほどもどかしい。空爆で立ち上る爆煙、爆風で圧死する兵士たちの描写も、フルCG映像などにはない実感が弾ける。かつて人海戦術による戦争大作を放ってきたソ連/ロシア映画界の伝統と実力もそこに映えているだろうか。

 ドラマの展開も秀逸かつ堅実で、戦闘の序盤は笑いやユーモアで場をなごませつつ、徐々にシリアスな空気をにじませていく。恋愛要素がほどよく絡むあたり、青春映画としても輝き、その点、どの国の戦争ドラマとも変わらぬ若き兵士たちの「明日を夢見る素顔」が垣間見えて、これまた胸が熱い。第二次世界大戦の東部戦線を描いた「局地的事実」の映像化でありながら、見事に普遍的な「物語」に昇華されている。

 出演者たちは、日本ではほぼ無名。人気俳優への共感をもって映画に接するタイプの観客にはつらいかもしれないが、名も無き英霊をリアルにしのぶ点においてはこれほど理想的な映画的風景もない。時間稼ぎに費やされた若者たちのなんと厳しい運命だろう。基本、どの戦争映画も反戦的要素を持つが、戦場の悲惨、戦争の無情、無意味を知る意味において、この映画にもまた感動を越えた痛みが鮮やかに刻まれた。一抹の歓喜と諦念にも似た絶望感を、一瞬のスローモーションの中に浮き彫りにするラストがあまりに切ない。

 11月19日(金)全国ロードショー
原題:The Last Frontier / 製作年:2020年 / 製作国:ロシア / 上映時間:142分 / 配給:アルバトロス・フィルム / 監督・脚本:ヴァディム・シメリェフ / 出演:アルチョム・グビン、リュボフ・コンスタンティノワ、イゴール・ユディン、アレクセイ・バルデュコフ、エフゲニー・ディアトロフ、セルゲイ・ベズルコフ、ロマン・マディアノフ、エカテリーナ・レドニコワ、セルゲイ・ボンダルチュク、グラム・バブリシヴィリ
公式サイトはこちら
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ドイツ×ソ連の東部戦線

 ナチス・ドイツによるソ連侵攻は1941年6月に、その最初の足跡が残されている。およそ300万人の兵力を投入したとされるドイツ軍の「バルバロッサ作戦」、それに対抗したソ連軍の映像化といえば、ユーリー・オーゼロフ監督の『モスクワ大攻防戦』(1985)だ。第1部、第2部、あわせて6時間に及ぶドキュメンタリー・タッチのロシア製映画はいろんな意味で刺激が大きい。

 『パトリオット・ウォー ナチス戦車部隊に挑んだ28人』(2016)は1941年11月のモスクワ攻防戦を描いたもの。『1941 モスクワ攻防戦80年目の真実』(2020)の「その後の経過」がわかる。同じく1941年が舞台の『ロシアン・スナイパー』(2015)は、伝説の女性狙撃手リュドミラ・パヴリチェンコを描いた作品。309人もスナイプした女子大生もまた、実は戦争被害者なのである。

 ソ連の対ドイツ戦のことごとくを描こうとした大作といえば、ユーリー・オーゼロフ監督による『ヨーロッパの解放』(1970)と『続・ヨーロッパの解放』(1977)を挙げざるを得ない。1943年に端を発し、1945年5月のベルリン陥落までを、およそ6万人の出演陣で描ききった。DVDは全5巻の陣容。

 ロシア映画界きっての(というよりも、モスフィルムの、というべきか)巨人監督セルゲイ・ボンダルチュクによる『祖国のために』(1975)は、スターリングラードの戦いを描いたもの。といっても、冬のスターリングラードではなく、1942年7月が舞台。徹底したリアル志向にしびれること必至。

 世にも悲惨な冬のスターリングラードの戦いとなれば、ヨゼフ・フィルスマイアー監督の『スターリングラード』(1993)が人間ドラマとしても見ごたえ十分。同じ題名のジャン=ジャック・アノー監督の『スターリングラード』(2000)ではジュード・ロウ、ジョセフ・ファインズ、レイチェル・ワイズ、エド・ハリスと、西側の人気スターがズラリ。こちらは1942年9月を舞台に、米ソの天才狙撃手の戦いを中心に描いたもの。とても見やすい仕上がり。『ロシアン・スナイパー』とあわせてどうぞ。

 戦争への参加が英雄的な行為と考えていた若者が悲劇的な末路を見るという点では、メル・ギブソン、マーク・リー主演の『誓い』(1981)が格段に素晴らしい。第一次世界大戦中、ガリポリ半島へと出征したオーストラリア軍兵士たちを描くもの。その後、アメリカで『刑事ジョン・ブック/目撃者』(1985)や『いまを生きる』(1989)などの話題作を撮る名匠ピーター・ウィアーの渾身の力作だ。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 

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