特集・コラム
映画のとびら
2021年12月17日
BELUSHI ベルーシ|映画のとびら #156【ポスタープレゼント】
1982年に33歳の若さで他界したジョン・ベルーシの生涯を追ったドキュメンタリー。コメディアンにして俳優、ミュージシャンの顔を持つ希代のエンターテイナーは、いかにして生まれ、アメリカのお笑い界を席巻したのか。その軌跡と悲劇的な結末を、貴重なアーカイヴ映像と関係者の声、そして元妻らが所蔵していたプライベート写真、手紙などで明らかにしていく。監督は『クリントンを大統領にした男』(1993)、『ビリー・アイリッシュ:世界は少しぼやけている』(2021)のR・J・カトラー。
ドキュメンタリーとしての最も大きな素材は、元妻ジュディス・ベルーシが長年保管していたベルーシにかかわる個人的な「遺産」である。そこには、夫との私生活を写した8ミリ映像をはじめ、学生時代から交わした手紙、数々の秘蔵写真とインタビュー音声が詰まっており、結果として、ベルーシの少年時代や家族、学生時代の知られざる姿から、喜劇役者として日の目を見ていくニューヨーク時代の裏側までつまびらかになった。もちろん、語り部の中心になるのは、それらの素材を提供した元妻ジュディスで、「芸人」としての評価や分析よりも、「人間」としての個人的な心理や思考が浮き彫りにされる。ジュディスは単なる恋人/妻ではなかった。ベルーシの心の闇を緩和する支えであり、いわば私生活の管理人。十数年に及ぶ生活でベルーシのすべてを知り尽くす人だけが放つことができるいつくしみにも似た情感。それが全編に漂っているあたりが本作品の特徴でもあり、一種のラブストーリーと解釈する観客もいるだろうか。
エンターテイナーとしての軌跡もわかりやすい。人を笑わせることが好きな少年期から大学で始めた即興喜劇バンド、その成功で招かれたシカゴの即興喜劇劇団「セカンド・シティー」への加入、そこからニューヨークへ転じてのラジオ喜劇の成功、怪物お笑いテレビ番組「サタデー・ナイト・ライブ」への参加と、怒濤の日々が明快に紹介されていく。その過程で登場するチェヴィー・チェイス、ダン・エイクロイド、ハロルド・ライミス、ビル・マーレイ、リチャード・プライヤー、ギルダ・ラドナーといった顔ぶれを見るだけで、いかにこの時代に後のアメリカ喜劇界の基礎が築かれたかがわかるはず。
ベルーシが国際的人気を博したのは、映画界で活動を始めてから。最初の爆発はもちろん『アニマル・ハウス』(1978)で、盟友ダン・エイクロイドとのタッグで名R&Bコンビを創造した『ブルース・ブラザース』(1980)をめぐる秘蔵カットも登場。監督のジョン・ランディス、アイヴァン・ライトマン、共演俳優ブルース・マッギルらの証言を聞くことができるのは映画ファンにはうれしいところ。
明るい話題ばかりではない。時代的に薬物摂取が寛容だったとはいえ、人並み外れてコカインの常習者だったベルーシは、成功の歓喜と軋轢の中で身を滅ぼしていく。バイタリティーあふれる活躍の一方で、お笑い王は精神的にはあまりにもろく繊細だった。ここでもやはり、ベルーシの人間性が明らかになる。
構成的には、さまざまな作品のフッテージ映像や写真、アーカイヴ映像に、関係者の証言が重ねられるという体裁。素材だけでは追いつかないと思われる部分に関しては、アニメーションの形で事象を再現していて快調。インタビュー映像が一切、入らないというのも、作品にほどよいテンポ感を与えているだろう。そのよどみのない語り口は、あまりに早く時代を駆け抜けたベルーシの人生にふさわしい。
作中でベルーシは自身について「自制心のあるアナーキストだ」と語っている。エンターテイナーとしてはともかく、一個の人間としてそれが的を射ていたのかどうか。
死後38年を経て実現した本記録映画は、かなうなら、もっと早くに作られてもよかった。ある意味、遅れてきたドキュメンタリーともいえるかもしれない。しかし、傍若無人の破壊力で新たな笑いを創造した怪人の偉業は、どの時代においても刺激的だ。その才能と素顔をこの作品でじっくり見つめてほしい。
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ジョン・ベルーシが映画で活躍した時期といえば、1978~1981年のわずか数年間。同時代にそれを目撃した人間となると、50代を越えた観客が中心となる。それ以降の世代には、もしかしたらジョン・ベルーシという名前はちょっと遠いかもしれない。この機会に彼の出演作の予習・復習を徹底することで、ドキュメンタリー映画の面白みを徹底的に味わっていただきたいところ。
まず必須となるのは、ジョン・ランディス監督、アイヴァン・ライトマンのプロデュースによる『アニマル・ハウス』(1978)だ。1960年代の名門大学を舞台にしたドタバタ喜劇で、ジョン・ベルーシの個性が遺憾なく発揮された秀作。ドキュメンタリーにも引用されている「ニキビ」のパフォーマンスや、「トーガ・パーティー」のシーンなどは抱腹絶倒だ。
スティーヴン・スピルバーグに招かれた戦争喜劇『1941』(1979)も、ベルーシのためにあったような企画。彼が演じる空軍大尉のハチャメチャな大暴れは、ベルーシだから許された!? 共演に「セカンド・シティー」の盟友ダン・エイクロイド。脚本を書いているのは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ(1985-1990)のコンビ、ロバート・ゼメキスとボブ・ゲイルである。
ダン・エイクロイドのブルース好きが影響して生まれたとされる『ブルース・ブラザース』(1980)は、サングラスに黒のスーツで決めたR&Bコンビのよるドタバタ喜劇。ベルーシとエイクロイドは実際に「ブルース・ブラザーズ」(日本ではなぜか映画題名とはアーティスト名が別表記となっている)として音楽活動も開始し、コンサート活動にアルバム発表にと大活躍。映画のサントラ盤はもちろん、オリジナル・アルバム『ブルースは絆』などは手もとに置いておきたい名盤。
新聞記者に扮した『Oh!ベルーシ絶体絶命』(1981)と『ネイバーズ』(1981)は、ちょっと笑いのギアを変えた、多くのベルーシ・ファンにとっては異色作。前者はスピルバーグが監督にマイケル・アプテッドを招いて製作したロマンティック・コメディー。後者は『ロッキー』(1976)のジョン・G・アヴィルドセンが監督を務めたオフビートご近所喜劇。公開当時は失敗作の烙印を押されており、後者に関してはドキュメンタリーでベルーシとアヴィルドセンの確執も言及されている。興味深い演技が見られるものの、いずれも日本ではDVD未発売。映画ファンにとっては残念至極だ。
もし彼が薬物の過剰摂取で世を去ってなかったら、映画『ゴーストバスターズ』(1984)の主演はビル・マーレイではなく、ジョン・ベルーシだった。ダン・エイクロイドはベルーシを念頭に置いて脚本を書いていたのである。もしもの妄想に暮れながら、お化け退治映画を見直すのも一興だろう。
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。
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