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映画のとびら

2022年2月10日

ゴヤの名画と優しい泥棒|映画のとびら #165【ポストカードプレゼント】

#165
ゴヤの名画と優しい泥棒
2022年2月25日公開
★「ゴヤの名画と優しい泥棒」のポストカードを抽選で5名さまにプレゼント!

©PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020
『ゴヤの名画と優しい泥棒』レビュー
笑って泣ける絵画泥棒物語

 1961年3月21日、イギリスの美術館「ロンドン・ナショナル・ギャラリー」で起きた絵画盗難事件の顛末をユーモラスかつ感動的に描いた人間ドラマ。『アイリス』(2001)のジム・ブロードベントと『クィーン』(2006)のヘレン・ミレンが事件にかかわる夫婦を演じる。監督は『ノッティングヒルの恋人』(1999)、『恋とニュースのつくり方』(2010)のイギリス人監督ロジャー・ミッシェル。

 ニューカッスルの安アパートに暮らすケンプトン・バントン(ジム・ブロードベント)は、今日も書斎で戯曲を書いている。主な題材は、早くに失った娘のこと。それをテレビ局などに送るのが彼の日課だった。弱者への抑圧に腹を立てている人情家のケンプトンにとって、とりわけ許せないのは公共放送局BBCの厳しい受信料取り立て。徴収者への抗議が行きすぎるあまり、時には監獄の厄介にもなるほど。ついには、息子のジャッキー(フィオン・ホワイトヘッド)を巻き込んで受信料徴収反対の署名運動まで行う夫に、妻のドロシー(ヘレン・ミレン)は不安いっぱい、不満たらたら。そんなある日、ロンドン・ナショナル・ギャラリーからゴヤの名画「ウェリントン公爵」が何者かによって盗まれるという報道がイギリス中を駆けめぐる。当局は国際的な窃盗団などを犯人像に想定するが、絵画はケンプトンの書斎にあった。ジャッキーの協力で絵画を書棚の奥に隠したケンプトンは新聞社経由で警察に要求書を送る。いわく「絵画を返してほしければ、年金受給者の受信料を免除せよ」。さて、ケンプトンの計画は成功するのだろうか。

 原題の「The Duke(公爵)」とは無論、ゴヤの絵画を指す。イギリスが購入するために14万ポンドもの高値を支払ったというこの絵をめぐる事件は、イギリス人や美術史に詳しい人間ならさておき、大半の観客には新鮮味をもって迎えられるだろう。事件のあらましを知らなければ、この映画は上質のコメディーであり、ある瞬間には意外なミステリーでもある。仮に史実を知っていても、恐らく人情劇として胸に迫るはず。犯罪劇の陰鬱(いんうつ)からどこまでも遠く、状況、会話からほとばしるユーモアを通して、悪意のまるでない労働者階級の人々の温もりが無理なく迫ってくる。後味もスッキリ、さわやか。

 ジム・ブロードベント&ヘレン・ミレンというイギリスを代表する老優が見せる夫婦像、そのこなれた芝居に時間を忘れることもしばしばだろう。一見、悪口雑言、それでいて機知に富む夫の台詞は実に名調子。一方、娘を失った哀しみから逃れきれない妻の心象は確かな重心となってドラマをブレさせない。

 当時のBBC受信料取り立ての風景に、わが国のNHKの受信料問題を重ねても、もちろんOK。思わずプッと吹くような笑いの仕掛けをちりばめながら、ドキドキの裁判劇を経て、最終的に夫婦の絆の回復へと収めていく物語の構成、演出の手際は鮮やか。95 分という尺もいい塩梅。これが最後の劇映画となったロジャー・ミッシェルの急逝、ファンならずとも惜しいところ。彼が残した快作『ノッティングヒルの恋人』のようなラブコメディーを見る気分で接しても全く問題がない。それほどタッチが軽快で、懐も深い。

 クライマックスでは、作曲家チャールズ・ヒューバート・パリー(1948-1918)がウィリアム・ブレイクの詩に曲を付けたイギリスの国民的愛歌《エルサレム》が神々しく流れる。『炎のランナー』(1981)でも使用された楽曲だが、ケンプトン・バントンに下される裁定こそ「イギリスの心」であるといわんばかりの英国讃美をそこに見る観客もいるだろうか。少なくとも、「子を思う親の心」の美しさがこの映画最大の美徳であることは間違いなく、万国共通の感動作として、存分に胸を熱くしていただきたい。

 2月25日(金)全国公開
原題:The Duke / 製作年:2020年 / 製作国:イギリス / 上映時間:95分 / 配給:ハピネットファントム・スタジオ / 監督:ロジャー・ミッシェル / 出演:ジム・ブロードベント、ヘレン・ミレン、フィオン・ホワイトヘッド、アンナ・マックスウェル・マーティン、マシュー・グード
公式サイトはこちら

 

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 映画『ゴヤの名画と優しい泥棒』(2020)で主人公を演じたジム・ブロードベントはイングランド東部リンカンシャー生まれのベテラン俳優。舞台出身で、映画にはイエジー・スコリモフスキー監督のただごとではない怪作『ザ・シャウト さまよえる幻響』(1978)でデビュー。以後、脇に欠かせない味のある俳優としてあまたの秀作、話題作に引っ張りだこ。マイク・リー監督との『トプシー・ターヴィー』(1999)でヴェネチア国際映画祭国際映画祭最優秀男優賞を受賞しているほか、人気ファンタジー『ハリー・ポッター』シリーズ(2001-2011)ではホラス・スラグホーン役を担当。特に、米アカデミー賞の助演男優賞を獲得した実話の映画化『アイリス』(2001)は見逃したくないところ。

 妻役ヘレン・ミレンも舞台出身の名女優。『キャル』(1984)、『英国万歳!』(1994)の2作品でカンヌ映画祭の女優賞を受賞している。テレビドラマ『第一容疑者』シリーズ(1991-2006)でのジェーン・テニスン警部役になじみが深い観客も多いはず。映画では、米アカデミー賞主演女優賞を獲得したスティーヴン・フリアーズ監督との『クィーン』(2006)は何はともあれ必見。

 監督のロジャー・ミッシェルは長編第3作『ノッティングヒルの恋人』(1999)の成功で大きく注目された人。ベン・アフレック主演の『チェンジング・レーン』(2002)やダニエル・クレイグが007役で注目される前夜に出演した『Jの悲劇』(2004)などのサスペンスも撮っているが、レイチェル・マクアダムス主演の『恋とニュースのつくり方』(2010)、ビル・マーレイ主演の『私が愛した大統領』(2012)、ジム・ブロードベントとタッグを組んだ『ウィークエンドはパリで』(2013)など、軽妙なラブストーリーや人間ドラマの佳作を多く残している。2021年9月22日に65歳で死去。遺作は2022年6月に日本公開予定のドキュメンタリー映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』(2021)。

 ちなみに『ゴヤの名画と優しい泥棒』のエピローグには、映画『007/ドクター・ノオ』(1962)の一場面が引用されている。それだけ、この事件は当時のイギリスで話題になったということの証でもあるわけだが、同時にそれをユーモアのネタにしているあたりも、この演出家らしい仕掛けといえそうだ。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 

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