特集・コラム

映画のとびら

2022年2月18日

ドリームプラン|映画のとびら #166

#166
ドリームプラン
2022年2月23日公開


©2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
『ドリームプラン』レビュー
テニス女王をつくり上げた王様親父

 テニス界の伝説的女王姉妹ビーナス&セリーナ・ウィリアムズはいかにして頂点を極めるまでに至ったのか。彼女たちを幼少期からつきっきりで育てた父親の姿を、ウィル・スミスの主演、プロデュースで描いた感動のスポーツドラマ。ウィリアムズ姉妹、及び彼女らの長姉にあたるイシャ・プライスも製作総指揮に名を連ねての一家公認の伝記映画であり、ビーナスの14歳でのプロ・デビューまでの日々が活写される。監督は『ジョー・ベル 心の旅』(2020)やNetflix配信ドラマ『トップボーイ』(2011/2013/2019)のレイナルド・マーカス・グリーン。第94回アカデミー賞では、作品賞、主演男優賞(ウィル・スミス)、助演女優賞(アーンジャニュー・エリス)、脚本賞(ザック・ベイリン)、歌曲賞(ビヨンセ)、編集賞(パメラ・マーティン)の計6部門で候補になっている。

 1980年代、カリフォルニア州の中でも治安の悪い街のひとつであるコンプトン。そのとある市民テニスコートで幼い姉妹に熱心にコーチをする男の姿があった。彼の名はリチャード・ウィリアムズ(ウィル・スミス)。熱心にラケットを振る姉妹はビーナスとセリーナ(サナイヤ・シドニー&デミ・シングルトン)だった。彼女たちを見守る家族も単なる見学者ではない。球拾いを手伝うのはビーナスとセリーナの3人の姉たち。母親のオラシーン(アーンジャニュー・エリス)も、ついつい暴走しがちな夫を監視するとともに、娘たちの心のケアに余念がない。ある日、リチャードは雑誌でジョン・マッケンローのコーチを務めているポール・コーエン(トニー・ゴールドウィン)に目をつけるや、いきなり電話で娘たちを売り込み、コーチをしてほしいと彼の練習場まで押しかけていく。最初は渋い顔をしていたコーエンも、姉妹の才能を知るや、リチャードの依頼を快諾。すぐにトレーニングを開始するのだが、そこにもリチャードは帯同し、コーエンの指導にいちいちダメ出しや注文をつけるのだった。

 ろくにテニスのことも知らなかったリチャードが娘を一流のテニス選手に育てようと思ったきっかけは、とあるトーナメントで優勝したヴァージニア・ルジッチが4万ドルの小切手を受け取る姿をテレビで見たことだという。しかも、ビーナスとセリーナが生まれる2年も前のこと。ほどなく「世界チャンピオンにする78ページの計画書」を書き上げたリチャードは、再婚したオラシーン(彼女が死別した夫との間にもうけた3人の娘がビーナスたちの姉にあたる)に協力を仰ぎ、来るべきわが子の誕生の日に備えた。邦題の「ドリームプラン」とは、そんなテニス経験ゼロの夫婦が立案した途方もない「夢の計画」にちなんだものである。今となっては計画書というより、預言書とした方がしっくりくるかもしれないが。

 基本的に、現代のアメリカンドリームを描く物語である。スポーツドラマとしては、それこそ『ロッキー』(1976)を見る気分で十分。家族や仲間とのふれあい、苦難の果てに、輝かしいゴールが待っている。サクセスストーリーとしての感動が手堅く彫り込まれて後味もさわやかだ。

 ウィリアムズ姉妹を知らない向きには当然、新味が大きい。少なくとも、彼女たちの父リチャードの存在については、それほど広く認知されていないのではないか。今でこそ成功した姉妹の父親として一部で有名なのかもしれないが、普通に考えれば無茶で無鉄砲で破天荒な行為。練習に没頭させるだけでなく、「普通の思春期の少女としての生活も大切」と言って、学業もおろそかにさせず、一方でプロ選手の育成に必須といわれていたジュニアの試合を娘にほとんどさせない。常識はずれの発想と強権ぶりの連続に、コーチ陣は顔色を失うばかり。それを幸いにも実らせることができたのはひとえに彼の信念であり、同時に家族の協力であった。ビーナスを優先させるあまり、育成が後回しにされたセリーナを母親が夫になり代わってコーチを務めるなど、家族の絆をめぐる横軸のエピソードは成功物語の感動を倍加させている。

 原題の「King Richard」とは無論、リチャードのことを指したものだが。その文字面だけを見ると、12世紀に活躍した十字軍の司令塔・イングランド王リチャード一世を連想する人もいるのではないか。大きな目的を達しようとした信仰心厚い人物という意味では、無茶王リチャード・ウィリアムズも同類である。彼にとって幼い姉妹を世界の女王にしようとする尽力は一種の「聖戦」であった。刀剣ならぬラケットをかざした現代のリチャード王は、ウィル・スミスの好演も手伝って、新たな伝説になっていくに違いない。

 2月23日(水・祝)より全国ロードショー
原題:King Richard / 製作年:2021年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:144分 / 配給:ワーナー・ブラザース映画 / 監督:レイナルド・マーカス・グリーン / 出演:ウィル・スミス、アーンジャニュー・エリス、サナイヤ・シドニー、デミ・シングルトン、トニー・ゴールドウィン、ジョン・バーンサル
公式サイトはこちら
OPカードで『ドリームプラン』をおトクに鑑賞できます

「TOHOシネマズ海老名」で映画を鑑賞すると小田急ポイントが5ポイントたまります。ルールはたったの3つ!

「イオンシネマ」OPカードのチケットご優待サービスで共通映画鑑賞券をおトクにご購入いただけます。

 

あわせて観たい!おすすめ関連作品
家族大好きウィル・スミス

 ウィル・スミスがかかわったサクセスストーリーものといえば、息子ジェイデンと親子を演じた『幸せのちから』(2006)が思い浮かぶ。ホームレス同然の暮らしを続けながら、息子を守り、やがて億万長者へと転身するセールスマンの物語は多くの観客の涙を誘った。ジェイデンとの親子共演でいけば、SFアクション『アフター・アース』(2013)もある。遠い未来を舞台に宇宙の果てを描くドラマでも、親子の絆は揺らがないのであった。いずれのプロデュースもウィル・スミス自身。

 ウィル・スミスは1990年代末、妻のジェイダ・ピンケットと映画製作会社「オーヴァーブルック・エンタテインメント」を設立して以来、プロデュース業に盛んに乗り出している。

 やはり息子のジェイデンを主役に立てた『ベスト・キッド』(2010)などは親子ものとしてもスポーツドラマとしても『ドリームプラン』(2021)とセットで見ておきたいところ。ラルフ・マッチオ主演の『ベスト・キッド』(1984)を下敷きにしたリメイクものであり、主人公の空手の先生ミヤギ役にジャッキー・チェンを招くあたり、プロデューサーとしてのセンスは悪くない。

 プロデュース作品ではないが、スポーツドラマにおける俳優ウィル・スミスとなれば『ALI アリ』(2001)は必見。文字どおり、ボクシング界の伝説的王者モハメド・アリの人生を描く作品で、その迫真の試合ぶりに第74回アカデミー賞では主演男優賞にノミネート。妻のジェイダ・ピンケットも出演者のひとりとして顔を出しており、彼の家族思いの一面はここでもしっかり確認できる。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 

Amazonプライム・ビデオで関連作品をチェック!


OPカードがあれば最新映画や単館系話題作がおトクに楽しめます

TOHOシネマズ海老名

映画を鑑賞すると小田急ポイントが5ポイントたまります。ルールはたったの3つ!

イオンシネマ

OPカードのチケットご優待サービスで共通映画鑑賞券をおトクにご購入いただけます。

新宿シネマカリテ

当日券窓口で小田急ポイントアプリのクーポンをご利用いただくと、大人(一般)300円引き、学生(専門学校、短大、大学、大学院)200円引きとなります。

新宿武蔵野館

当日券窓口で小田急ポイントアプリのクーポンをご利用いただくと、大人(一般)300円引き、学生(専門学校、短大、大学、大学院)200円引きとなります。

music.jp800「OPカード特別コース」