特集・コラム

映画のとびら

2022年10月22日

チケット・トゥ・パラダイス|映画のとびら #211

#211
チケット・トゥ・パラダイス
2022年11月3日公開


© 2022 Universal Studios. All Rights Reserved.
『チケット・トゥ・パラダイス』レビュー
どこまでも続く夫婦漫才

 ジョージ・クルーニー&ジュリア・ロバーツの顔合わせで描く南国コメディー。卒業旅行先のバリで突然、結婚を決めてしまった娘を説得するため、仲の悪い元夫婦が繰り広げるドタバタを描く。クルーニーとロバーツが演じる元夫婦の娘役に『デトロイト』(2007)、『ディア・エヴァン・ハンセン』(2021)のケイトリン・デヴァー。娘が好きになるバリの青年をインドネシア人俳優のマキシム・ブティエ。監督は『マンマ・ミーア! ヒア・ウィ・ゴー』(2018)のオル・パーカー。

 デヴィッド(ジョージ・クルーニー)とジョージア(ジュリア・ロバーツ)の元夫婦は、25年前に結婚してすぐに娘を授かるも、結婚生活は5年で破綻。以後、娘の愛情を我がものにしようとにらみ合ってきたのだが、その娘リリー(ケイトリン・デヴァー)もいよいよ法律学校を卒業。弁護士事務所への就職を前に、友人レン(ビリー・ロード)とバリへ卒業旅行に旅立つことに。ひとまず笑って見送ったのも束の間、リリーが旅行先から結婚を決めたと連絡してきた。相手は地元で海藻養殖を生業(なりわい)にしている青年だという。当然、弁護士事務所への就職はなし。慌てたデヴィッドとジョージアは、自分たちが衝動的に結婚をして失敗した過去を娘に繰り返させないようにと、一路、バリへ向かうのだった。

 基本的に、ジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツの共演を見る作品。共演作を重ね、互いの懐を知った者同士だけがなせる至芸が見られる、といえば大げさだろうか。とにかく、出ずっぱり。出てくれば、軽妙な台詞の応酬。よくしゃべる。ずっとしゃべっている。仲の悪い元夫婦という設定上、大半はけんか腰だけれど、あまりに我々観客は現実の両者を知っている。仲良しという印象がある。悪態をついても、ちっとも嫌な気分にならない。言葉がすべてコメディーの軽みに昇華される。ここまで来ると、もはや「洗練された掛け合い」であり、一種の「芸」だ。いつまでも、どこまでも続く「夫婦(めおと)漫才」が楽しい。見ていて居心地がいい。両者の相性のよさとそれを生かした芝居に、ただただ降参である。

 監督のオル・パーカーによれば、元夫婦役についてはクルーニーとロバーツを想定して脚本が進められ、両者にもその旨を伝えてのキャスティングだったという。「だから」といえば、確かにそのとおり。恐ろしくリラックスしている。「伸び伸び」を超えている。それでいて、このふたり、私生活では友情関係の一線を越えていない。恋愛関係に足を踏み入れていない。あくまで友情と尊敬の中に収まっている。だから、元夫婦を演じても妙な臭みがない。果てしなく、健康的。それがまたこの喜劇をさわやかな空気に包む。

 もちろん、製作陣はこのふたりの関係性にただ甘えているわけではない。元妻ジョージアには若いパイロットの恋人(リュカ・ブラヴォー)がいるという状況を設定にプラスした。彼が元妻を追いかけてバリまで来る。その様子を見て、元夫は落ち着かなくなってくる。にわかに、元妻の様子が気になってくる。そう、この映画は三角関係を描く恋物語でもあった。つまり、熟年ラブコメディー。彼らはバリへの旅を通じてどんな結論を出すのか。「楽園」を見いだすのか。その行方はきっと高い年齢層の観客にも刺激的なはず。

 若い観客には、娘が見つけた「恋と未来」が恐らく身近に映る。弁護士の将来を捨てて南国の一次産業に根を下ろそうとする彼女の姿は、ポスト東日本大震災、ポスト・コロナのひとつの潮流だろう。一見、脳天気、でもほんのちょっと現実的。そんな作品のバランス感覚に称賛の声を送ってもいい。

 11月3日(祝・木)より全国ロードショー
原題:Ticket to Paradise / 製作年:2022年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:104分 / 配給:東宝東和 / 監督:オル・パーカー / 出演:ジュリア・ロバーツ、ジョージ・クルーニー、ケイトリン・デヴァー、マキシム・プティエ、ビリー・ロード、リュカ・ブラヴォー
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クルーニー&ロバーツの共演歴

 ジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツが最初に映画で顔を合わせたのは、大ヒット犯罪コメディー『オーシャンズ11』(2001)でのこと。それぞれと仕事を共にしていたスティーヴン・ソダーバーグ監督による引き合わせといえるが、この現場で互いに好感を持ったのだろう。翌年にはクルーニーが監督を兼任した『コンフェッション』(2002)が公開された。このちょっとユニークなサスペンスにクルーニーがロバーツの出演を欲したのは、まさに信頼と友情の表れといっていい。

 人気シリーズの続編『オーシャンズ12』(2004)では、お話そのものより、気心の知れた出演陣によるパーティー的気分がにじんでいる。クルーニーとロバーツの友情もさらに深まったことだろう。

 その前後では共通の友人のブラッド・ピットがロバーツと『ザ・メキシカン』(2001)で共演し、彼が製作総指揮に名を連ねた『食べて、祈って、恋をして』(2010)ではロバーツは主演級のひとりとして名を連ねている。一方、ピット&クルーニーには『コンフェッション』『オーシャンズ13』(2007)があり、彼らが形成する「仲良しサークル」は、やっぱり明るく健康的なのだ。

 異色の共演作ということでは、ジョディ・フォスターが監督した『マネーモンスター』(2016)がある。クルーニー演じるテレビ番組の司会者が、番組に逆恨みする男に拉致される物語で、ロバーツはそれを生中継するディレクター役。シリアスな状況にあるふたりを見たい向きにはオススメ。

 映画『チケット・トゥ・パラダイス』(2022)では、クルーニー&ロバーツは製作総指揮にも名を刻んでいる。製作総指揮にはいろいろな意味があるが、大別すると映画への出資者を明記する場合、あるいは映画の「品質保証」のために大物出演者などが名を貸す場合のふたつ。今回は後者だろうが、その表記を見るだけで「楽しくやっている映画ですよ」と伝わる。実際、無邪気なほど明るい喜劇となった。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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