特集・コラム

映画のとびら

2022年10月27日

窓辺にて|映画のとびら #213

#213
窓辺にて
2022年11月4日公開


©2022「窓辺にて」製作委員会
『窓辺にて』レビュー
稲垣吾郎の「温度」を感じる

 『愛がなんだ』(2019)、『街の上で』(2021)などの人気監督・今泉力哉が稲垣吾郎を主人公に据えて描いたオリジナル・ラブストーリー。妻の「ある行動」をめぐって、心の揺れを覚えるフリーライターの姿を静かなタッチでつづる。妻役に稲垣同様、これが今泉作品初出演となる中村ゆり。フリーライターが心を通わす高校生作家に玉城ティナ。その恋人に倉悠貴。フリーライターが懇意にしているプロスポーツ選手夫婦に若葉竜也と志田未来。フリーライターの妻が編集を担当している若手作家に佐々木詩音。

 元作家で今はフリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)は、小説編集者の妻・紗衣(中村ゆり)とふたり暮らし。若手作家・荒川円(佐々木詩音)の新作執筆のバックアップに日々、余念がない妻を眺めながら、なんとも言えない複雑な感情を抱いている。一方で、高校生作家・留亜(玉城ティナ)がとある文学賞を受賞した小説に興味を抱いた茂巳は、留亜に小説のモデルに会いたいと申し出る。留亜が紹介したのは金髪姿の恋人・優二(倉悠貴)だった。彼への不満と不安を漏らす留亜に自分なりの意見を述べつつ、実は茂巳も紗衣が浮気をしているのではないかと薄々感づいていたのだった。

 稲垣演じるフリーライターの問題は、妻の浮気という事実よりも、それを感づきながら、何の感情もわかないことだった。その状況に少なからず動揺し、茂巳は友人に相談もする。一見、深刻な恋愛劇が連想されるかもしれないが、作品のトーンとしては概して「常温」というべきか。劇的な高揚感も悲壮感もなく、むしろ節々におかしみすらにじませて、淡々と進んでいく。恋愛感情をめぐるドラマを描いている点ではラブストーリーと呼んでよく、人によってはこじれた関係性があれこれ登場するコメディーでもあり、煎じ詰めるなら自身の感情を他人事のように見つめる男の「平熱ポートレート」とたとえてもいいかもしれない。

 今泉監督によれば、これは稲垣吾郎の主演作を打診され、過去に構想していたアイデアに稲垣をはめ込んで仕上げた作品とのこと。一種の当て書きになるわけだが、少しでも稲垣吾郎という男の空気にふれた人間なら、当て書きどころか、稲垣そのもののような感触をこの主人公に対して持つのではないか。

 筆者のことで記すなら、グループのメンバーだった時代に数度、稲垣に取材をする機会があった。何をどう話しても熱を帯びないその口調、応対ぶりはとみに印象的で、場合によっては冷淡にも映り、でも実際はそんなことはなく、そこには彼なりの熱意などは端々に介在していたわけで、ただ、感情的に動いたり、人に自分の感情をぶつけたりするなど無様なこと、というような美学などは少なからずあったのではないか。ひと筆書きをするなら、そういう印象であり、その稲垣像はそのまま茂巳という主人公に重なる。

 本人に近いことがすべてではない。役が本人のままであることが最大の栄誉でもない。ただ、稲垣が精神的に等身大の役を得られたこと。演技であって演技でないお芝居を見せる状況が得られたこと。しかも、それを稲垣が好んだ今泉演出のもとでかなえられたこと。そして、それを目撃できる機会を我々が持つことができたこと。そんなことどもを、この映画では素直に喜んでいいのではないだろうか。

 感情のひだを、いい意味でモタモタと拾い上げている今泉演出は今回も快調。この監督の場合、物語の設定が混み合っていなければいないほどいい。シンプルなほど人間関係の感情のもつれが、恋愛問題の生々しさが、そして日常に生きる人間の個性が鮮やかに浮かび上がる。少なくとも、ここでは稲垣吾郎という人間の「体温」がにじんだ。稲垣が持つ独特の「涼しさ」がそよぐ。そう、涼しい。それはクールや耽美などという稲垣をめぐる表現のたぐいからきっと遠いもの。むしろ、それとは正反対の、彼ならではの人間味がここにはある。それが感じられる。そんな稲垣体験、なかなかない。映画作品としてもとても心地よい。

 「窓辺にて」という作品題名、これも稲垣に似つかわしい。稲垣は木漏れ日の窓辺が似合う。

 11月4日(金)全国ロードショー
原題:窓辺にて / 製作年:2022年 / 製作国:日本 / 上映時間:143分 / 配給:東京テアトル / 監督・脚本:今泉力哉 / 出演:稲垣吾郎、中村ゆり、玉城ティナ、若葉竜也、志田未来、倉悠貴、穂志もえか、佐々木詩音、斉藤陽一郎、松金よね子
公式サイトはこちら
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文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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