特集・コラム

映画のとびら

2022年12月16日

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター|映画のとびら #223

#223
アバター
:ウェイ・オブ・ウォーター
2022年12月16日公開


© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』レビュー
サリー家は一致団結!

 ジェームズ・キャメロン監督による映像革命的前作から13年。待望の続編がとうとうその全貌を現した。西暦23世紀、衛星パンドラを舞台に、先住民族ナヴィと地球人の戦いが再び勃発(ぼっぱつ)する。主演は前作同様、ジェイク・サリー役にサム・ワーシントン、ネイティリ役でゾーイ・サルダナ。シガーニー・ウィーバー、スティーヴン・ラングが新たなキャラクターとして再出演するほか、『タイタニック』(1997)のケイト・ウィンスレットが海の民「メトゥカイヤ族」のひとりとして登場している。

 地球人ジェイク(サム・ワーシントン)が先住民ナヴィに「帰化」して十数年。妻ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)との間にはネテヤム(ジェームズ・フラッターズ)、ロアク(ブリテン・ダルトン)、トゥク(トリニティ・ジョリー・ブリス)という3人の子どもを授かり、養子として迎えたキリ(シガーニー・ウィーバー)、地球人の孤児スパイダー(ジャック・チャンピオン)とともに平和な日々を過ごしていた。しかし、ある日、再び地球側が侵略を開始、またも戦争の日々が始まってしまう。災いの元凶が自分だと感じたジェイクは、家族と部族を守るために、森から離れる決心をするのだった。

 3時間を超す総尺の中、サブタイトルが示すとおり、今回の主な舞台は海。戦禍を逃れた森の民サリー家の面々が海の民「メトゥカイヤ族」に加わり、彼らの生活様式を学んでいくというもの。映像的には前作同様、圧巻のひと言で、とりわけ海中の描写が始まるや、あっという間にそのカラフルで豊かな世界に引き込まれてしまう。生物描写も例によって詳細かつダイナミック。トビウオやクジラ、熱帯魚などを思わせる魚類や海棲哺乳類、水棲植物が続々登場。画面のどこを見ても思わずため息がもれる高品質かつ手の込んだ仕上がりで、これでは映画の製作に13年を要したというのも納得せざるを得ない。

 興味深いのは、劇中の現実においても十数年の歳月が過ぎているという設定で、当初からこれだけの長い製作期間をキャメロンは想定していたということか。続編製作の期間としては異例すぎる年月も、パンドラでも同じように時間が経っていたのかと考えると、何の違和感もなくなるのだから面白い。

 長い尺を思うと、鈍重で変な中だるみがあるのではないかと危惧する向きもあるだろうが、この冒険ファンタジーに関してはほぼない。むしろ、前半などはまるで「海へさっさと移動したい」とばかりに、十数年の流れがまくし立てるように紹介され、戦争が始まってももったいつけることなくスピーディーにガンガン先へ進む。もし前半の森での戦いをじっくり描いていたら総尺も5時間を超えたのではないか。

 ドラマ的には家族という単位での切り口が目立っているのが大きな特徴で、海へ舞台を移してからは子どもたちの描写に特に重きを置いている。前作がジェイクとネイティリのラブストーリーとするなら、今回は家族の結束の物語といっていい。合い言葉も「サリー家は一致団結!」なのである。

 子どもたちにはそれぞれ細かい性格付けが施されており、個々の能力、出自には今後のシリーズ展開でひもとかれるであろう秘密が隠されているのは明らか。彼らの一挙手一投足から目が離せない。

 一方で、ジェイクは単なる「語り部」に終わっているわけではない。予想もしない「復活」を果たした宿敵クォリッチ(スティーヴン・ラング)一派の汚い戦術に対して、体を張った戦いに挑みつつ、おのれの起こした行動をドラマの中心で自問するのである。戦禍を逃れた行動は正しかったのか、それとも?

 ジェイクが守らなければならぬ対象は前作以上に限定的になり、具体的になった。それと歩調を合わせるように、クライマックスの戦いも前作以上に局地戦となり、これまた家族単位のスペクタクルへと昇華する。スケールの大きさとは別方向のアクション描写というべきだろうか。前作の「空」から「海」へとステージが変わったことももちろん大きい。ただし、しつこく、たたみかけるような表現はいつもと変わらぬキャメロン節。子どもたちの無防備な行動にハラハラとイライラを感じつつ、いつの間にか過ぎていた3時間という時間を最後に認識して、観客はまたも演出の見事な語り口に惚れ込むのである。

 宇宙の果ての海の物語とはいえ、そこで繰り広げられる海の生物との関係性は実に現実的。人によっては耳が痛い「環境保護」の視点は今回も歴然と存在し、もはや鉱物採掘が最大の目的ではなくなった地球側の侵略事情も含め、ちょっと捨て置けない。パンドラの危機はそのまま我々の危機である。その意味では、今回の続編は形を変えた前作の焼き直しという見方も可能で、換言するなら大河ドラマとしての新たな出発がここにあるといってもいい。本当の勇気、本当の団結が試されている。サリー家がそれを教えてくれる。

 シリーズ第3弾は2024年の劇場公開を予定。お楽しみはこれからなのである。

 12月16日(金)全国公開中
原題:Avatar:The Way of Water / 製作年:2022年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:192分 / 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン / 監督:ジェームズ・キャメロン / 出演:サム・ワ―シントン ゾーイ・サルダナ シガーニー・ウィーバー
公式サイトはこちら
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水の作法

 ジェームズ・キャメロンという監督は水にこだわる映画作家だといっていい。趣味がダイビングであり、作品として有名なところでは『アビス』(1989)における海底スペクタクルがまず思い出されるはずだが、そもそもの監督デビュー作が海岸ホラー『殺人魚フライングキラー』(1981)なのである。

 一見、関係のなさそうな『ターミネーター2』(1991)でも、コナー少年を付け狙う変幻自在のT-1000型殺人マシーンなどは『アビス』における水表現から生まれた創造物であった。具体的には、海底基地ディープコアの中を「水のかたまり」がヘビのように伸びて動き回るシーン、そのVFXがトロトロ溶けまくっては姿形を変えるマシーンのアイデアにつながった。ほかにも『アビス』には「完全版」における「津波静止」という荒技描写もあり、水をいかに表現するかという意識の強さが伺える。

 沈没スペクタクル『タイタニック』(1997)では現実の水と格闘したといえる。そこでの苦労が再び水をVFXで自在に操ることができないかという野望に転じた可能性は高い。

 13年の月日を要した『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(2022)は、キャメロンが水を描くこと、海の美しさを描く喜びのひとつの到達点といってもいい。CGによる水表現の難しさを知る人ほど、信じがたい映像の連続である。あまりに普通にそこに描かれるので、ちっとも作り物に思えないのだからすごい。『アビス』では出演者に潜水装備をつけさせ、延々とタンクのセットに潜らせ続けたキャメロンは、今回、信じがたいことにCG用のパフォオーマンス・キャプチャを水の中で俳優にやらせたという。ケイト・ウィンスレットによる「数分間も潜ったままでいられるようになった」との発言は撮影現場での徹底ぶりを裏付けるものだ。キャメロンは前作に続き、またもCG表現のレベルをひとつ上げた。

 キャメロンの海中への思いを知るには、IMAX用ドキュメンタリー映画『タイタニックの秘密』(2003)を見てもいい。製作総指揮を務めた洞窟潜水サスペンス『サンクタム』(2010)もある。キャメロン流「ウェイ・オブ・ウォーター」=「水の作法」は過去も現在も興味深い。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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