特集・コラム

映画のとびら

2023年3月17日

仕掛人・藤枝梅安㊁|映画のとびら #244

#244
仕掛人・藤枝梅安㊁
2023年4月7日公開


(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社
『仕掛人・藤枝梅安㊁』レビュー
スリリングなアクション編

 今年2月3日に劇場公開され、新たな復活を遂げた池波正太郎小説の代表的キャラクター・藤枝梅安の活躍を描く第2弾。今回は、梅安と仕掛人仲間の彦次郎、それぞれの「仇敵」が登場。互いの思惑を緊張感たっぷりに絡めながら、激しい激突を描いていく。梅安を付け狙う浪人に佐藤浩市、彦次郎が復讐を果たそうとする相手に椎名桔平。さらに、梅安の師匠に小林薫、梅安に新たな仕掛を依頼する上方の「蔓(つる)」に石橋蓮司。脚本と監督は前作に続き、大森寿美男と河毛俊作がそれぞれ担当。

 幼い頃、身寄りのない自分を拾って鍼(はり)医者の道へと導いてくれた恩師・津山悦堂(小林薫)の墓参りをするため、梅安(豊川悦司)は相棒の彦次郎(片岡愛之助)と京へ向かって旅をしていた。その道中のことである。彦次郎は通りがかりの素浪人の顔を見て「あの野郎!」と急に激高し、後をつけ始める。その男・峯山又十郎(椎名桔平)は、かつて彦次郎が百姓だった頃、その妻を暴行し、娘ともども、死に追いやった放浪者と同じ顔をしていたのだ。しかし、梅安からすると、又十郎には品格があり、とても彦次郎が言うような悪人には見えない。探ってみると、又十郎は松平甲斐守の家臣であり、彦次郎の仇敵は又十郎とうりふたつの双子の弟、無頼集団の頭目・井坂惣市(椎名桔平の二役)だった。一方、そんな梅安もとある人間から恨みを買っていた。浪人・井上半十郎(佐藤浩市)こそ、古くから梅安を妻の敵と考えている男。放浪の果てに京の町で梅安を発見した半十郎は、腰の物を素早く抜くのだった。

 第1作を豊川梅安の登場編とするなら、この第2作はアクション編とするべきか。梅安、彦次郎ともに雌雄を決しなければならない相手が存在し、まさに仕掛の枠を逸脱した戦いが描かれる。もっとも、梅安の暗殺道具は細長い鍼、彦次郎は毒矢。彼らが刀を持って派手なチャンバラを展開するわけではない。では、梅安と彦次郎はどう彼らの敵と戦うのか。そこに至るまでの気迫=心の活劇も含めてアクション編と説くのが正しいだろう。いずれにせよ、全編ハードボイルド・タッチの重厚な前作とは味わいを異にしており、主人公のキャラクター説明が省かれている分、話はスピーディーに前に進む。スリリングな風が吹く。

 物語の進行が速く感じられるのは、もちろん、あくまで前作との比較の結果。クライマックスの「対決」に至るまでは仕掛人になる前の梅安、彦次郎の回想が入り、仇敵が生まれたいきさつが丁寧に語られている。徹頭徹尾、アクションでお話を埋め尽くすようなことなどなく、そこは正統派時代劇の節度と緩急をにじませた結果といえる構成。一方で、今回も前作に続き、陰影を生かした映像作りが徹底されており、現代的なダークヒーローものの気分が敷き詰められている。雰囲気が共通しているがゆえに第1作のシリアスな重厚さがいい助走に思い返されて、痛快に感じる観客もいるのではないだろうか。

 共通しているのは映像の雰囲気だけではない。実は両作品とも梅安の女性をめぐるトラウマが軸になっている。第1作は生き別れた母親や妹をめぐる葛藤、今回は佐藤浩市演じる浪人の妻(篠原ゆき子)をめぐる情のもつれ。江戸に戻ってきた梅安が情婦おもん(菅野美穂)に対して激情をほとばしらせる場面はその象徴として印象深いだろう。この豊川版『仕掛人・藤枝梅安』二部作は、梅安の心の傷をえぐり、癒やすための物語だったといっていい。実は女性を重視した『梅安』ものとして新しく、意義も深い。

 第2作で初登場となる椎名桔平は善悪に分かれた兄弟を演じ分けて見事。とりわけ彦次郎の妻を襲う際の表情の悪辣、冷酷ぶりはすさまじい。同じく初登場の佐藤浩市は亡き妻をめぐる、いかんともしがたい複雑な感情を演技ににじませて迫力満点。堂に入った殺陣も相変わらずりりしく、ドラマを盛り上げた。

 エンド・クレジット後には、これからの梅安、これからの新作時代劇を期待させるサービス場面が登場。池波正太郎ユニバースに没頭しているファンはもちろん、新たな時代劇ファン開拓の意気込みもにじんで、見る者をたまらなく熱くさせてくれる。もっと池波作品を、もっともっと時代劇を!

 「仕掛人・藤枝梅安」2月3日(金)・「仕掛人藤枝梅安㊁」4月7日(金)連続公開
原題:仕掛人・藤枝梅安㊁ / 製作年:2023年 / 製作国:日本 / 上映時間:119分 / 配給:イオンエンターテイメント / 監督:河毛俊作 / 出演:豊川悦司、片岡愛之助、菅野美穂、小野了、高畑淳子、小林薫、一ノ瀬颯、椎名桔平、佐藤浩市
公式サイトはこちら
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文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


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