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映画のとびら

2019年4月19日

シャザム!|新作映画情報「映画のとびら」#003

#003 シャザム!
2019年4月19日公開
©2019 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.
レビュー
さあ、みんなで叫ぼう!「シャザム!」

 魔法使いに見込まれ、超能力を授かった少年がスーパーヒーローに変身するというアクション喜劇。

 魔法使いの名前がシャザム。その名前「シャザム!」を叫んで、少年は大人の体を持ったムキムキの超能力者に変身できる。で、変身後の名前がまたシャザム。少年の体に戻るとき叫ぶ言葉も「シャザム!」。もうシャザムだらけ。でも、わかりやすい。それがゲーム感覚にもなって、シンプルで明るい少年冒険活劇に昇華しているのも事実。

 ネタの大元は1940年代に発表されたコミック・キャラクター。そのときの名前が「キャプテン・マーベル」。1970年代にDCコミックスが版権を買い上げたとき、同業他社に同じ名前があったため、これを「シャザム」に変更。ややこしい事情を抱えた名前を持つふたつのヒーローがそれぞれ日本の2019年春興行を賑わしているというのも一種の喜劇だろう。

 いずれにしても、DCコミックスを原作にしたヒーロー・キャラクターとして、これだけ明朗闊達な存在もトップクラスで珍しい。ここに出てくる主人公は、おのれの災難をウジウジ嘆いたりしない。それどころか、超能力を得たうれしさではしゃぐばかり。

 映画の開巻から40分。大人の体を持った少年がまずやったことはビールの購入。透明人間が風呂場を覗きにかかるのと同レベルである。そんなユルイ笑いから、映画は一気にコミカルに走り出す。舞台がフィラデルフィアであることにちなみ、映画『ロッキー3』の主題歌《アイ・オブ・ザ・タイガー》に乗って「稲妻ビールショー」も展開。学校で教科書を吹き飛ばしたかと思えば、超能力を使った「スーパー映像」で無邪気にYouTuberを始めたりもする。

 シリアスな空気がないわけでもない。実のところ、映画は悪役の紹介から始まっている。その男ドクター・シヴァナ(マーク・ストロング)の主人公への敵意は何ぞやといえば、恐らく妬みが主体だろう。「なぜ俺がこうで、お前がそうなんだ?」という倒錯である。そこにM・ナイト・シャマラン監督作『アンブレイカブル』(2000)のイライジャ・プライス(サミュエル・L・ジャクソン)と同様の感情を読み取る向きもあるかもしれない。ただ、重ねて記すが、その対決構造は興奮を醸し出しても、必要以上の痛みを伴うことはない。最後まで明るく軽い。それがこの映画の身上。

 ちなみに、シャザム(Shazam)とは、伝説の神々の英字頭文字に由来する。具体的に並べるなら知恵のソロモン、剛力のヘラクレス、体力のアトラス、全能のゼウス、勇気のアキレス、そして神速のマーキュリー。対するシヴァナが体内に抱えているのが強欲、怠惰、憤怒、色欲、大食、傲慢、嫉妬という「七つの大罪」。正邪の在り方としては、大仰な感もありつつ、人間の業がにじんだ寓話として悪くない。

 一方で、主人公の少年ビリー(アッシャー・エンジェル)が失踪した母親を捜して回るバスケス家の里子であること。またバスケス夫婦自体、里子であったこと。そして、彼らがビリーをはじめ、さまざまな境遇の子どもたちを里子として引き取っていること。それらがドラマに厚みをもたらしていることは間違いなく、それゆえの笑いであることも理解しなければならないだろう。原作では若いラジオ・アナウンサーが変身するのだが、これを里子の少年を主人公に変更することで、映画版の懐は情感的に広く豊かになった。

 超能力を遊び心いっぱいに弾ませたクライマックスの戦いも愉快痛快。大人の体を持ったビリー=シャザムを演じるザッカリー・リーヴァイの健康的な存在感も心地よい。

原題:Shazam! / 製作年:2019年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:132分 / 配給:ワーナー・ブラザース映画 / 監督:デビッド・F・サンドバーグ / 出演:ザッカリー・リーヴァイ、アッシャー・エンジェル、ジャック・ディラン・グレイザー、マーク・ストロング / 公式サイトはこちら
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(C)1988 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
COMEDYFANTASY
タイトル ビッグ
(原題:Big)
製作年 1988年
製作国 アメリカ
上映時間 102分
監督 ペニー・マーシャル
出演 トム・ハンクス、エリザベス・パーキンス、ロバート・ロッジア

大人の体を持った子どもが見せる感動

 中身が子どもの大人を描く喜劇作品は、アメリカ映画の定番的題材といえる。

 筆頭に挙がるのはトム・ハンクスが主演した『ビッグ』(1988)だろう。カーニバルで不思議な魔王ボックスに願いを込めた主人公の少年ジョッシュが朝、目覚めたら大人に変わっていたというもの。子どもならではの感性で玩具用品の会社で成功を収めていくという流れはいつ見ても微笑ましい。

 同じく「大人になりたい」と願っていた13歳の少女が30歳の大人に変わってしまうコメディーが『13 ラブ 30/サーティン・ラブ・サーティ』(2004)。主演のジェニファー・ガーナーがトム・ハンクスに負けないオトナ少女をキュートに好演。こちらは主人公がファッション雑誌に勤めるという展開であった。

 同様に、いわゆる「心が入れ替わる系映画」も少なくない。ジャッジ・ラインホールドとフレッド・サベージが父と子の立場を逆転させる『バイス・バーサ/ボクとパパの大逆転』(1998)などは代表格のひとつ。とてもいい仕上がりの喜劇である。

 一種の病として大人になってしまった少年を描いたのがフランシス・フォード・コッポラ監督作品『ジャック』(1996)だ。通常の4倍の速さで体が成長してしまった10歳の少年が40歳の体で学校に初登校するという物語。主人公を演じるロビン・ウィリアムズの芸達者ぶりは例によって格別で、笑いと哀感を両立させてお見事。

 子どもの心を持った大人が呼ぶ笑い、大人の体を持った子どもが見せる感動を描く作品は、物語や演出はもちろんのこと、俳優の持ち味が大きくものをいうジャンルでもあろう。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。