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映画のとびら

2019年5月2日

アベンジャーズ/エンドゲーム|新作映画情報「映画のとびら」#006

#006
アベンジャーズ/
エンドゲーム
2019年4月26日公開
©Marvel Studios 2019 All rights reserved
レビュー
最後の戦いに向けて「アベンジャーズ、アッセンブル!」

 シリーズ完結編。前作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)のラストで多くの命、大切な仲間が失われた世界を、ヒーローたちはいかにして修復するのか。その尽力の顛末が描かれる。

 サノス(ジョシュ・ブローリン)による「人口を半分にして、宇宙の不均衡を正す」という大義名分が実行に移されて間もなく、インフィニティ・ストーンそのものも消失させられていた。結果、為す術を失ったヒーローたちに5年もの無為な時間が過ぎたが、量子世界に閉じ込められていたアントマンことスコット・ラング(ポール・ラッド)が現代に戻ったことで、新たな解決策が講じられることになる。

 ストーンによって奪われたものはストーンで取り返すしかない。絶望の時間から一転、新たな計画を実行していくヒーローたちだが、いたずらにバトルシーンを繰り返すわけではない。そのあたりが、本作品の第一の美徳というべきだろう。周到なまでの「ストーン奪回作戦」は、一種の水面下での駆け引きであり、その作戦開始まで、およそ開巻から1時間。チームを三つにわけての実行場面が、さらに1時間といったところ。語り口はおおよそ巧妙かつ滑らかで、最後の決戦まで娯楽性に富んで弛緩させることがない。

 山場の一大決戦は25分程度だが、その後の15分ほどのエピローグがまた情感深く整う。要するに、人間ドラマとしての屋台骨が堅実な作品であり、いくらキャラクターごとに細分化された断片的挿話の連続であっても、描写として微塵も停滞させず、物語の推進力を維持できているあたりはさすがである。作戦の実行にあたり『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)の理屈を否定する意見も劇中に飛び出すが、その割に奪回作戦自体が『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』(1989)よろしき気分を匂わせるあたりなどは、このシリーズならではのサブカル寛容の姿勢、ユーモアと受け取ってもいい。

 アクション表現に関しては従来通り、いわずもがなの魅力である。今日の技術の粋を見せる映像表現であり、とりわけ、かつて知ったる面々が一堂に会するサノスとの最終決戦など、いよいよの動的活力の爆発、劇的な臨場感がにじみ出て、ファンには感涙ものだろう。

 シリーズ全体の立ち位置で見るなら、それまで蒔かれた伏線の種をいかに回収するかという大命題がこの完結編にはあった。キャラクターの数といい、舞台となる惑星、時代の多様といい、3時間を超える長尺も致し方がないところである。無論、シリーズの来歴を知らずに単体で楽しめる作品では決してない。強いていえば、アイアンマンことトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr.)とキャプテン・アメリカ=スティーヴ・ロジャース(クリス・エヴァンス)、このふたりに大きく収束される仕掛けとなっているのだが、キャラクター偏重で慌ただしく結論を急ぐような野暮も冒さなかった。その平衡感覚もりりしい。上質のコミック・アドベンチャーにして、堂々たる風格を備えた「戦争と人間」を描くドラマである。

原題:Avengers:Endgame / 製作年:2019年 / 製作国:アメリカ / 上映時間:181分 / 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン / 監督:アンソニー&ジョー・ルッソ / 出演:ロバート・ダウニー Jr.、クリス・ヘムズワース、マーク・ラファロ、クリス・エヴァンス、スカーレット・ヨハンソン、ジェレミー・レナー、ポール・ラッド、ブリー・ラーソン / 公式サイトはこちら
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(c) 2014 Warner Bros. Entertainment, Inc. and Paramount Pictures. All Rights Reserved.
SFDRAMA
タイトル インターステラー
(原題:Interstellar)
製作年 2014年
製作国 アメリカ
上映時間 169分
監督 クリストファー・ノーラン
出演 マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ、ジェシカ・チャステイン、エレン・バースティン、マッケンジー・フォイ、マイケル・ケイン

量子テクノロジーをめぐる映画的興奮

 『アントマン』シリーズに登場した量子世界はサノスに蹂躙された世界を救う鍵となるが、サイエンス・フィクションの題材としても、量子という素材はかねてから映画に不可欠な素材になっている。

 マイケル・クライトン原作の『タイムライン』(2003)では、量子テレポーテーションというアイデアが投入された。過去のある場所に、量子テクノロジーで人間を「ファクス」するという発想である。そこに14世紀の英仏百年戦争のアクションを掛け合わせるという仕掛けが妙味となった。

 ジョニー・デップ主演の『トランセンデンス』(2014)では、量子コンピューターに科学者の脳データがアップロードされた。結果、意識を持ったコンピューター、俗に言うA.I.が誕生した次第。

 クリストファー・ノーラン監督による『インターステラー』(2014)は、人類の第2の故郷を求めて旅立った探索者たちの物語だが、最終的に地球そのものからの人類脱出をかなえる方法が見いだされるという展開の作品。主人公のパイロットはブラックホールの量子データをモールス信号に変換して送り、地球の重力から解き放たれる術を娘に託した。量子技術が父子の絆をつなぐ手段になっているあたりが面白い。

 米テレビドラマ『タイムマシーンにお願い』(1989-1993)の原題は「Quantum Leap(量子跳躍)」。まだ量子テクノロジーがロマンの直中にある時代の作品だが、SF的な冒険をつかさどるアイデアとして、ある意味、『アベンジャーズ/エンドゲーム』のそれと大きく隔たりを見せるものではないだろう。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。