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映画のとびら

2019年5月2日

台北セブンラブ|新作映画情報「映画のとびら」#005

#005
台北セブンラブ
2019年5月25日公開 (6/8~21:あつぎのえいがかんkiki にて上映)
©Red Society Films
レビュー
台湾から届いた風変わりな感性にふれる喜び

 台北のとあるデザイン事務所をめぐる男女7人の姿を描く人間ドラマ。

 原題の「相愛的七種設計(英語題は“Design 7 Love”)」は「七種類の愛の形」を意味するが、決して全体がロマンス映画というわけではない。もう少し広い意味で「愛」という表現をとらえた方が馴染みはよく、むしろ、もっと根源的な欲望とそれを置き換える方が落ち着きはいいかもしれない。

 実際、ここに登場するデザイン事務所の人間やその顧客は、いつも自分中心。相手の気落ちをおもんぱかる前に、自身の感情を優先させ、暴走させる。その口からこぼれるのは不平不満や悪口が中心で、とにかく不機嫌。トンがっているキャラクターともいえるが、共感や感情移入が容易な人物たちでもない。

 物語としては、新たなデザインホテルを生み出すという依頼を受け、そのテーマが「時間」から「愛」へと映っていく過程で、それぞれの思いが衝突し、徐々に騒動に発展していくというもの。恋愛のもつれにがんじがらめなっていく者もいれば、自尊心の大きさゆえに行き詰まりを覚える者も出てくる。

 新しいデザインホテルの行方はもとより、衝突し合う人物たちの麗しい和解にゴールがあるわけでもない。定石の展開や結末を期待していると、恐らく呆気にとられるだろう。映像的にもカラフルである一方、さまざまな効果音や凝った映像処理が突如介入し、時にイメージ的に交通渋滞を起こすほど。ポップというには手が込みすぎた様式感というべきで、個人的には新しさよりもレトロ感の逆流をそこに見るものであり、野心の空回りのような風景にも映る。平たくいうなら、やりすぎ、デザインしすぎの映像試行となるか。とはいえ、自分のことしか考えない登場人物たちに何よりもイマドキ感が感じられるのも事実。女性デザイナーが思い描く妄想シーンのCG映像なども現代ならではの魅力だろう。

 時に物語と現実がごっちゃになる場面もあり、いよいよ倒錯感が募るこの作品は、だからこその独自の個性を確立できているともいえる。これだけ大胆に感情や物語を引っかき回している映画もちょっと珍しい。こういうタイプの映画が公開される喜び、こういう種類の表現に接することができるスリルをあらためて感じてほしい。さまざまな種類の作品にふれることで、映画は初めて我々観客の中で対象化できるのである。

 
K’s cinema《台湾巨匠傑作選2019~恋する台湾~》:5月8日 16時30分より特別先行上映
原題:相愛的七種設計 / 製作年:2014年 / 製作国:台湾 / 上映時間:116分 / 配給:台湾映画社 / 監督・脚本:チェン・ホンイー / 出演:アン・シュー、モー・ズーイー、ホアン・ルー、チウ・イェンシャン、トム・プライス、ダレン・ワン、チェン・ユーアン / 公式サイトはこちら
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(c)3H productions ltd. All Rights Reserved
ROMANCE
タイトル 台北ストーリー
(原題:青梅竹馬)
製作年 1985年
製作国 台湾
上映時間 119分
監督 エドワード・ヤン
出演 ツァイ・チン、ホウ・シャオシェン、ウー・ニェンチェン

映画でさまざまな表情を見せる台北という街

 台北という街は、映画の舞台として多くの秀作、話題作にその表情が刻まれてきた。

 1980年代から1990年代にかけて、この街を一躍有名にしたのはエドワード・ヤン監督だろう。『台北ストーリー』(1985)、『恐怖分子』(1986)、『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(1991)、『エドワード・ヤンの恋愛時代』(1994)、『カップルズ』(1996)などは、彼ならではの問題意識が独自の映像感覚とともに街の情景ににじんで痛いほど。

 そのエドワード・ヤンの『台北ストーリー』に俳優として出演し、彼と歩調を合わせて自身の表現を磨いたホウ・シャオシェン監督にも『恋恋風塵』(1987)という台北を舞台にした秀作がある。

 ホウ・シャオシェンが製作総指揮を務め、彼の現場で映画製作を体験した女流監督ホアン・シーによる人間ドラマ『台北暮色』(2017)には、優しい光の中に浮かぶ台北があった。台北という街の古さと新しさが混合した情景は、ちょっと体験しておきたいところ。

 ヴィム・ヴェンダースが製作総指揮を買って出たアーヴィン・チェン監督の『台北の朝、僕は恋をする』(2009)も、見ておきたい瑞々しい青春映画。ツァイ・ミンリャン監督の『青春神話』(1992)、『愛情萬歳』(1994)、『河』(1997)などには、その冷徹な視線に刺激を覚えること請け合いだ。

文/賀来タクト(かく・たくと)
1966年生まれ。文筆家。映画、テレビ、舞台を中心に取材・執筆・編集活動、および音楽公演の企画、講演活動も行う。現在『キネマ旬報』にて映画音楽コラム『映画音楽を聴かない日なんてない』を隔号連載中。

 


【小田急沿線での上映予定】

あつぎのえいがかんkikiにて上映【2019年6月8日(土)~6月21日(金)】

*『台北セブンラブ』は、TOHOシネマズ海老名、イオンシネマ、ユナイテッド・シネマでの上映はございません。(2019年5月2日現在)